幕間 マルシアと妖精
2幕
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桟橋がかかるのを待って、エルが一番に船から降りた。
その時ちょうど、少し強めの風が吹いた。風がエル愛用の帽子を吹き飛ばしてしまった。
「エルの帽子!」
フェイが宙で指を回した。すると風向きが変わり、帽子がフェイの手の中に舞い落ちた。
「はい、お姉ちゃん。気をつけなくちゃ」
「あ、ありがと……」
エルはフェイから帽子を受け取り、頭に被り直した。
――時に、思う。〈妖精〉と渾名される妹にはエルを含むこの世界がどう映っているのだろう、と。
マルシアのようにフェイに優しくしてくれる人がいたと聞けば安心するが、淡々と大精霊の仕打ちを語るフェイを見ていると、冷たく流し見されている程度なのでは、と不安にもなる。
「なあ、ローエン。何だか少し騒がしくないかな? 前来た時もこんなんだったっけ」
「いえ、賑わいのある島ですが、これは――物々しい空気ですね。何か事件があったのでしょうか」
ルドガーとローエンの会話を耳にし、エルはとっさにフェイと手を繋いだ。ペリューン号の時のような「こわいフェイ」を見たくなかったから。
「ローエンさん!? ローエンさんじゃありませんか!」
ざわめきの中から一人の男が出てきた。いかにも店を営んでいるというイメージの割烹着と、蓄えたヒゲが目に付いた。
「だれ?」
エルの問いにはエリーゼが囁き声で応えてくれた。
「レイアのお父さんのウォーロック・ロランドさんです。マルシア首相が今日行く予定のレストランの料理人さんでもあるんですよ」
「ウォーロックさん。そんなに慌ててどうなさったんです」
「た、大変なんです! マルシア首相の一行が襲われたんです!」
エルは思わずフェイとルドガーを見上げた。同時にこちらを向いた二人と顔を見合わせる形になる。
「ウォーロックさん、落ち着いて。状況を説明してください」
「突然、エレンピオス人の集団が店に押し入ってきて、首相たちを連れ去ったんです。この要求を呑まないと首相の命はないと言い残して」
ウォーロックが差し出したメモをローエンが受け取り、目を通す。
「――アルクノアの犯行声明。ペリューン号事件で捕えられた仲間の解放を要求しています」
その時、エルの手を掴む力が強まった。つい顔をしかめ、手を繋いだフェイを見上げ――エルは息を呑んだ。
ペリューン号でリドウと対峙した時と同じ、呵責の消えた赤目。
「行かなきゃ」
「っ、フェイ」
「こんなやり方でおばちゃんをキズつけて――」
「フェイっ、イタイよ、フェイ!」
フェイは弾かれたようにエルから手を離した。そして、エルと自分の手を見比べ、一歩下がった。
「ごめん、なさい……お姉ちゃん」
姉妹の間に気まずい
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