「ボクサー だいたいみんなノーモーション」(1)
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ローキックのきり方を知らないボクサーあり
前蹴りを喰らってたじろぎ、二発目はそれを払って相手の髪の毛を掴みにゆき、もはやボクサー
では無くなったものあり
「喧嘩は気合っすよ!」と言って、蹴り足を掴んではひねり散らすボクサーあり
「心落ち着かば、すべての攻撃は等しくわが心の中にあり」と、蹴られ続けるボクサーあり
腹の内、しこりのような度胸を宿したボクサーを、キックボクサーが回転蹴る
夢のような興奮の中、勝ち負けを知らず、魂が夜の街外れに打ちあがる
タノム達は、ボォっと煙を吐き出し、天井の灯りを見ていた。別に涙がこぼれないためでも、「いったい何時から俺たちはこんなイジメに逢っているのか?」という疑問に答えを求めている訳でもなかった。ただ、闘い。その後ボォっとして、また闘う。
「だいたい日々ってそんなもんだろ?」と。
タノムは今日吸ったタバコの数を頭の中で数えている。
「二十三本か…。ジョーダンだ。神様だ」
『カッコいいものになど手が届かない』から、その諦めで笑うのか。それとも『自らの中にあるカッコよさに符号しない』から笑うのか。『自分が真剣に努力してしまえば、カッコよさが壁に変わってしまう』から、笑っていなすのか。『イジメられっ子が必死にあがく様』をせせら笑うようでもある。
みんな、マジになる予定があるなら笑わないほうがいいぜ。本当にカッコがつかなくなるから。
札幌は中心部から徒歩で行ける場所に、『サッポロ・プラチナジム』がある。数年前まではボクシングジムだったが、今はボクシングも出来るフィットネスジムになっている。午後になればプロボクサーも顔を出す。ほとんどの人は筋力トレーニングをしながらそれを眺めている。好奇心旺盛な人は玄人に混ざってボクシングを教わっている。ドアを入って左側に筋トレマシーンがあり、右手にリングとサンドバック。笑っていたのは、大学生くらいの男。筋トレをしている二人組みだった。イースケは彼らの心を見透かそうとして彼らから目線を外した。
「人前でチンポを出すような恥ずかしさだぜ」
真剣にボクシングをやることである。
「すいません。先日、電話で取材を申し込んだ者です」と、イースケは名刺を出した。恐らくはその人が会長なのだろうと言う人に。その人何も言わなかった。そして指さした。指をさした方にはトレーナーがいた。ミット打ちをしている。小太りである。
「提示したのが『はした金』だったか?」と思うが、そんなに『ウェルカム』ではないよな。別に「このジムからチャンピオンが出る」という話でもないし。
「ハイ! 中村ちゃん! 集中しろ! 一点だ。一点に集中しろ! そしたらその向こうに世界広がるよ! 一点突破だ!」
ミットを叩く音と、激しい息づかい。頭から噴出した汗
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