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恋よりも、命よりも
空を、見て
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そう呟きながらも、彼女の瞳はやさしい。
「私はあの時、…正直その少し前からほとんど正気ではなくなっていて。痛みも苦しみも、頭のでき物のおかげかほとんど感じなくて、その代わり周囲の事も全く分からなくなっていて。それでも、最期に『舞台に出るよ』という言葉と、お客様の拍手だけは聞こえたんです。本当に私の望みを、あの子たちはかなえてくれた。」
最期は、本当に走馬灯が見えたのだと言う。
「ほとんど、あの子たちと過ごした日々の出来事で…私の青春の日々は、一番大切だった時期は、全部あの子たちと一緒にあったんだと思ったんです。……だから」
「………だから?」
「だから、できれば来世も一緒にありたいじゃないですか。そのためには、ちょっとくらい寂しくてもここで待ってようかなぁって思ってるんです」
けなげでしょ?

おどける彼女にしかし彼は優しく微笑むだけだった。
「そうですね…では、一緒に待っていましょうか。…大切な人たちを」
「案外待たされるかもしれませんよ〜なんせ、皆図太いから」
特にタッチーなんて、ああいう子は案外長生きなんですよね〜

そんな事を言いながら、それでも彼らは水面を見続けて、願い続ける。

どんなに待たされてもいいのだ、彼女らが幸せであるのなら。
ここは人生を終えた事に納得できたものだけが来れる空の上なのだから。
できれば幸せに、満足した人生を満喫してから来て欲しい。

ただ、たまには。
自分たちが話すように、彼女たちも自分たちの事を思い出して、そして
空を、見て。

そう、願いつづける。
そんな、
秋の良き日。

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