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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百五話 嘲笑する虐殺者
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。帝国内でヴァレンシュタインが周囲から受け入れられず孤立しているとの噂が流れているが内務省、軍情報部が流した偽情報だ。貴族達がヴァレンシュタインに怯えないようにと考えての事だった。

「もう少し胸が痛むかと思ったがそうでも無かったな」
「私もだ、娘を持つ父親としてはああもぎらついた欲心を見せられると嫌悪感が湧くのだろう。罪悪感より嫌悪感が上回った、いや罪悪感など消し飛んでしまったよ」
ブラウンシュバイク公が私を見て頷いた。

「まだ生きているからな。だが連中が死ねば罪悪感を感じるのだろう。おそらく一生消える事は有るまい……」
「……忘れてはなるまい。忘れぬ事が我らの務めだろう、彼らの屍を肥やしとして新たな帝国を創る。違うかな、公?」
ブラウンシュバイク公が大きく息を吐いた。十八万隻を超える艦隊……、大軍ではある。しかしどれだけの将兵が無事に戻ってこれるだろう……。気が付けば私も息を吐いていた……。

「そうだな、新たな帝国を創る、それで許されるわけではないがそれしか我らには出来ぬのも事実、そしてあの者達には新たな帝国を創る力は無い……」
最後は呟く様な口調だった。そう、連中には新たな帝国を創る力は無い。だから古き帝国の担い手として滅びるしかない。切り捨てる痛みと切り捨てられる痛み、どちらが痛いのか……。

考えるまでも無いな、切り捨てる痛み等所詮は偽善でしかない。我らは生きて新たな帝国の誕生を見る事が出来る、満足して死んでいけるだろう。だがあの者達は己の運命を、そして彼らを切り捨てた我らを呪うだけに違いない……。



宇宙歴 795年 11月 19日    ハイネセン  統合作戦本部   アレックス・キャゼルヌ



統合作戦本部の地下にある会議室に四十名近い将官が集められた。これから貴族連合軍に対してどう戦うか、その作戦会議が開かれる。十五万隻を超える大軍を迎え撃つ。誰にとっても初めての事だ、会議室の彼方此方から興奮した様な声が聞こえた。俺自身多少興奮しているという自覚が有る。

同盟軍の陣容はいささか変則的ではある。総司令官はシトレ元帥が務めるが療養のため一時的にヴァレンシュタイン中将に指揮権を委譲したという形を取っている。当然健康になれば指揮権はシトレ元帥に返上される。その方が戦争が長期に亘った場合混乱が少ない。能力以外にもその点が考慮されてヴァレンシュタイン中将を総司令官代理に任命した。

総司令部は以下の通りだ。
総司令官:宇宙艦隊司令長官シトレ元帥
総司令官代理:ヴァレンシュタイン中将(特設第一艦隊司令官兼任)
総参謀長:チュン少将(特設第一艦隊参謀長兼任)
副参謀長:ブレツェリ准将(特設第一艦隊副参謀長兼任)
作戦主任参謀:デッシュ大佐(特設第一艦隊作戦主任参謀兼任)
情報主任参謀
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