第百五十三話 雲霞の如くその十二
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「ではじゃ」
「はい、いよいよですな」
「今から」
「あと少し減ったところでじゃ」
敵がだ、そうなったところでだというのだ。
「一気に攻めるぞ」
「ですな、待っただけですな」
「そうしますか」
「敵は個々は強いが陣形は組んでおらぬ」
長島からのことだ、闇の服の者達は強く武器もいい。しかし陣を組まずそのままで向かって来るだけだからだ。
それでだ、信長は言うのだ。
「陣を組んでかかればだ」
「いいのですな」
「そうあるべきですな」
「攻める、よいな」
また言ってだ、そのうえで。
信長は自身の軍に攻める用意をさせた、そうして時を待った。
闇の服の者達は数を減らしていく、そして。
その数がかなり減ったところでだ、信長は命じた。
「よし、攻めよ」
「はい、では」
「今ここで」
「ここで勝てば一乗谷まで向かえる」
越前のそれだけの部分を取り返せるというのだ。
「ではな」
「はい、では」
「今から」
家臣達も応えてだ、そうして。
織田家の軍勢は一斉に鉄砲、弓矢から槍と刀に持ち替えた。信長はその彼等にすぐにこうも命じたのだった。
「鶴翼じゃ」
「それで敵を包み込み」
「一気に」
「真ん中はわしが率いる」
総大将である彼が自ら軸になるというのだ。
「右は権六じゃ」
「はい」
柴田が応える。
「左は牛助じゃ」
「わかり申した」
佐久間も応える、織田家の武の二枚看板がそれぞれだ。
諸将も真ん中と両翼にそれぞれつく、それでだった。
織田家の軍勢はこれまでの守りから一気に攻めに入った、一気に鶴翼の陣になりそこから敵を包み込み殲滅した。その時にはもう本願寺の灰色の者達は皆逃げ去っていた。
陣を組んでいない闇の服の者達は最後まで戦ったがそれでもだった、彼等は一兵残らず倒れ伏した。こうしてだった。
織田家の軍勢は勝った、本願寺の軍勢は戦場には残っていなかった。信長も逃げる者達は追おうとしなかった。
「後は政じゃ」
「本願寺の者達をどう収めるかはですな」
「それですな」
「そうじゃ、それだけじゃ」
こう言うのだった、丹羽と明智に。
「本願寺の者達は本質的に敵ではない」
「織田家とはですな」
「そうですな」
「そうじゃ、あの者達も民じゃ」
民だ、それならというのだ。
「我等としてもじゃ」
「攻めずにですな」
「治めるべきですな」
「降ればそれでよい、要は向かって来る敵を倒し」
そしてだというのだ。
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