暁 〜小説投稿サイト〜
蒼き夢の果てに
第5章 契約
第83話 舞踏会の夜
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は、非常に珍しい。いや、先ほどタバサが俺以外の人間に対して能動的な行動を行った以上に珍しい事を言い出す湖の乙女。
 彼女に関しても興味があるのは食事と読書。これ以外で能動的な行動は……。

 もっとも、これで、先ほどタバサが俺の前を進んで行く際に口の動きだけで示した言葉の……貸し一の意味が判ったような気がしますが。

 何の事はない。タバサが自らの意志でジョルジュとワルツを踊りたかった訳ではなく、最初に俺と踊る役を湖の乙女に譲ったと言う事。
 おそらく、【指向性の念話】に因ってタバサと湖の乙女の間で何らかの交渉が為され、その最中にジョルジュが冗談半分で差し出した手をタバサが取ったと言う事なのでしょう。

 こうすれば、ジョルジュの冗談は角を立てずに受け流す事が出来ますし、ジョルジュ。いや、モーリエンヌ家の次期当主として次期ガリア王妃とワルツを踊る事が出来る人間で有る、と言う事をこのレセプションに出席したガリアの貴族たちに印象付ける事も出来ますから。
 もしかするとジョルジュ本人の意図も、最初に俺を断られる事を前提で誘って置いて、断られると次にタバサの方に流れで申し込む心算だったのかも知れませんが。

 その順番の方が、タバサに行き成り申し込むよりは断られる可能性が低いですから。

 そして、湖の乙女との【念話】ではなく、わざわざ実際に口を動かして見せたのは、俺にその事を気付かせようとした。……と言う事。
 この辺りも、彼女なりの密やかな自己主張なのでしょうね。

「かめへんで。少なくとも、次の曲はこの曲よりもリズムに合わせ易いはずやからな」

 既に主旋律の典型的なワルツの雰囲気を持った曲調から崩れ、ガリア貴族たちは再び音楽に身を任せる事を止め、その中心で自分たちだけの世界を築き上げて居るふたりに視線を送る。
 そう、今、この瞬間の主人公、ふたりの真の貴族の姿に……。

 元々、この曲は途中から変調を重ねる、初めて聞いて、それに合わせて舞うには、あまりにもレベルが高すぎる楽曲。
 そもそも、強烈なシンバルや銅鑼の音色はワルツの優雅さには少しそぐわないのでは、とも思いますし。

 但し、聞けば聞く程、何か引き込まれるような、そんな妙な魅力を持った曲で有るが故に、この舞踏会の夜に合わせて、ガリアお抱えの奏者たちを徹底的に鍛えたはずですから。
 魔将ハルファスが調達した楽譜と、魔将ハゲンチがその職能を駆使して。
 その結果は……。

 今宵、ヴァルサルティル宮殿に集まった耳の肥えた貴族たちが、後々に評価してくれる事と成るのでしょうね。
 多分……。

 強烈な、ある意味破滅的な音の洪水の中、猛烈な勢い……独楽のように旋回を続けていたふたりの動きが止まった瞬間、
 変調を重ね、最後は喧しいまでに鳴り続け
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