第5章 契約
第83話 舞踏会の夜
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は既に、近世の西欧の貴族社会が作り出した舞踏会の夜に相応しい様相を取り戻していたのです。
突然、誰も居なかった。いや、壁しかないと思い込んで居た場所から突如現れたタバサ……オルレアン大公家次期当主シャルロット姫と、サヴォワ伯長子ジョルジュ・ド・モーリエンヌの姿に驚き、その動きが固まるガリア貴族たち。
しかし、そんな些末な事など関係ないようにワルツは流れ続け、ひとつの曲が今、静かに終わった。
そして――――
すべての貴族の視線がふたりに注がれる中、お互いの瞳を覗き込み……。
始まりは静かな、しかし舞踏には絶対に向かない音楽が流れ始める。
それはまるで、渦巻く雲の中から舞うふたりの姿が浮かび上がって来るかのような低い音の弦楽器の反復から始まり……。
その音楽に乗る事の出来なかった周囲の貴族たちを他所目に、二人だけの世界を演出するタバサとジョルジュ。
そのふたりの動きにまるで合わせるかのように始まる主題。ワルツの優雅なメロディ。
地球世界のスペイン。バスク地方出身の有名な作曲家によるウィンナ・ワルツの礼賛として着想された曲。
但し、この楽曲を用意した張本人なのですが、俺の感想を言わせて貰うと、この曲からは礼賛と言う雰囲気を感じない曲なのですが……。
ワルツの主旋律が流れ始めた事で、タバサとジョルジュ以外の貴族たちもそれぞれのステップで、そして、それぞれのターンで曲に合わせて舞い始めるガリアの貴族たち。
普段の彼らが暮らす夜と比べると格段に明るいシャンデリアが夢幻の光を放つ中に、多くの着飾った貴族たちが、典型的なワルツのリズムに合わせて優雅にステップを刻み、華麗にターンを決める。
その中心で、まるでこの舞踏会の主役の如く舞うふたりを、ぼんやりと部外者の瞳で見つめる俺。
矢張り、身長差が有り過ぎて、ジョルジュとタバサの組み合わせはダンスのパートナーとしては不釣合いか。
そんな事を考え始める俺。但し、俺とジョルジュの身長はそんなに差がないので、俺とタバサがワルツを舞うのも、少しバランスが悪いカップルとして他人からは映る、と言う事なのでしょうね、とぼんやりと考えながら……。
しかし……。
そんな、少しネガティブな事を考えて居た俺の左の袖をそっと引く、絹製の舞踏会用の長手袋に包まれた小さな手。
「なんや、湖の乙女。何か用が有るのか?」
最近、少し自己主張が強く成って来た、……と言うか、俺の視線が彼女に向く前に、俺の視線を自らの方向にむかせようとする行為が多く成って来た彼女。
但し、それが良い事なのか、それとも悪い事なのかは判りませんが。
「次の曲は私と一緒に踊って欲しい」
表面上は本を読む事以外に一切の興味を持って居ないかのような彼女にして
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