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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第83話 舞踏会の夜
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うが」

 そう冷たく、更に呆れたように答える俺。
 そもそも、俺にはソッチ系の趣味は有りません。まして、コイツの種族の瞳をウカツに覗き込んだらどう言う事に成るかを知識として知って居る人間が、簡単に互いの顔と顔。瞳と瞳を見つめ合い、音楽に合わせて、ふたりの動きをシンクロさせるような真似をする訳がないでしょうが。
 魔術の基本が判って居る人間ならば尚更。

 ただ、王を護る騎士が王族に対して、その様な真似を為す可能性は非常に低いとは思いますけどね。

 そんな、妙に洒落の効いた様子で俺に対して差し出されたまま宙を掴んで居た右手に、そっと添えられる舞踏会用の絹の長手袋に包まれた繊手。
 この手は……。

 その瞬間。ジョルジュの手に彼女の右手が添えられた事を、より大きな驚きの目で見つめたのは俺で有ったのだろうか。それとも、右手を差し出した当人……ジョルジュ・ド・モーリエンヌの方で有っただろうか。

「喜んでお受け致します」

 ゆっくりと前に一歩だけ踏み出し、静かに……。普段通りの透明な表情のまま、普段とは違う柔らかな口調で答えるタバサ。
 ……って、言うか、タバサが俺以外の人間に対して能動的な行動に出る?

 青天の霹靂。今、この瞬間に世界が終っても不思議ではない、と言うぐらい異常な出来事が目の前で展開して居る状況。
 そもそも、彼女が自分から何か行動を起こす事は殆んど有りません。キュルケに対する時でも、すべて行動を起こすのはキュルケの方で、彼女はキュルケの行動に対して受け身と成って居るだけ。

 彼女が自ら行動を起こすのは、食事、読書を除けば、俺に決断を促す時と……。
 俺が、彼女以外の女性と会話をして居る時に、こちらが気付かないレベルで、ほんの僅かな割り込みを掛けて来る時だけ。
 もっとも、その事について俺が気付いて居るので、それが彼女の自己主張だと気付ける程度の本当に小さな主張なのですが。

 まさか、俺に衆道のたしなみが有る事を警戒した訳はないと思うのですが……。

 呆気に取られて、ただ呆然と歩み行く彼女を見つめる俺。そのマヌケ面を晒した俺の目の前を通り過ぎて行く瞬間、僅かにこちらの方に視線を向けるタバサ。
 そして、小さく口のみを動かして見せる。
 これは貸し一、……と動いたような。

 しかし、貸し一?

 何か、益々意味不明なのですが、タバサにはタバサの思惑と言う物が有るのでしょう。少なくとも、今の彼女の瞳は普段の冷静な彼女のままの瞳でしたし、雰囲気も変わる事は有りません。
 ならば……。

【レヴァナ。それに、ウヴァル。タバサの事を頼む】

 既に動き出して居た紅い髪の少女と、その少女をエスコートする騎士風の青年に対して、そう【依頼】を行って置く俺。
 そのふたり…
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