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秋雨の下で
第八章
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コーチの一人が彼に尋ねた。
「スクイズじゃ」
 古葉は短い言葉でそう言った。
「まさか」
 コーチはそれを聞いて首を横に振った。
「西本さんですよ。まさかこんな時にスクイズなんて。それに」
「御前の言いたいことはわかっとるけえ」
 古葉は彼に対して言った。
「あの時のことやろ」
「・・・・・・はい」
 コーチはその言葉を聞き頷いた。
 十九年前の日本シリーズ、大毎と大洋の戦いであった。この時西本は大毎の監督をしていた。
 このシリーズは今だに語り草となっている。三原マジックがその妙技を見せつけたシリーズであった。
 ターニングポイントは第二戦であった。
 八回表、大毎の攻撃であった。スコアは三対ニ、大洋一点リードであった。
 マウンドにいるのは大洋の誇るエース秋山登、バッテリーを組むのは盟友土井淳である。当時このバッテリーは難攻不落と呼ばれ怖れられていた。
 だが一死満塁、大毎の逆転のチャンスである。
 当時大毎は強打のチームであった。いよいよそれが爆発するものだと誰もが思っていた。
 打席に立つのは五番の谷本稔。西本はここでスクイズを命じたのである。
「なっ!」
 それを見た観客達は思わず唖然とした。まさかここでスクイズとは。
 だがそれは失敗した。ダブルプレーに終わりその回の攻撃は終わった。

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