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秋雨の下で
第六章
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 西本はそれを聞いて首を縦に振った。
「行って来い」
 そう言うと代打を告げた。
「代打、佐々木!」
 そのアナウンスが響いた時球場にどよめきが起こった。
「遂に出て来たな」
「ああ、待ちに待った左殺しや」
 近鉄ファンは皆勝利を確信した。その気が広島ベンチ、そしてマウンドにいる江夏にまで伝わってきた。
「負けるか・・・・・・」
 古葉は向かいのベンチにいる西本を見て呟いた。
 西本は腕を組んで佐々木を見守っている。何も語ろうとしない。表情も変えない。ただ佐々木を見ているだけである。
「頼むで」
 西本は心の中でそう言っただけであった。
 古葉は江夏を見ながら考えていた。そして佐々木も見ていた。
「ここが勝負だな」
 それは彼にもよくわかっていた。
 佐々木は西本の一番弟子である。今まで出番がなかったとはいえその打撃には定評がある。前述の通り左には特に強い。江夏が打たれる危険が最も高いのはこの男である。
 だがそれを逆にして言えばこの男を抑えれば勝利が見える。両チームは今緊張の頂点にいたのである。
 近鉄ベンチからは凄まじいオーラが発せられる。勝利を掴まんとするオーラだ。
 それは江夏も感じていた。だがそれに動じる江夏ではない。
 彼は今まで後楽園で王、長嶋を向こうに回してきた。甲子園では熱狂的なファンの想いを一身に集め投げぬいた。その彼にしてみればプレッシャーなぞものの数ではなかった。
 逆に佐々木を睨みつける。そしてその目を見た。
(強振やな)
 その強い光を見て江夏はすぐに見抜いた。

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