9『錬金一家』
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アインクラッド第三十五層主街区は、《ミーシェ》と言う。牧歌的な農村のたたずまいの町で、それほど大きくはないがどこか落ち着くところがある。
シリカのホームタウンは第八層の《フリーベン》らしいが、今はこの街を拠点にしているらしい。ヘルメスはこの主街区にやってきたのは、転移のときを含めて五回ほどなので、しっかりと街を見るのは初めてだった。なかなか穏やかな街だと思う。
現在は夜だからか、町中に淡い街灯がともっている。中世風の街並みが、ヘルメスにかつて一度だけ行ったヨーロッパの情景を思い起こさせる。
「こっちですよ、ヘルメスさん」
シリカがヘルメスに手招きする。彼女に連れられて大通りに出ると、丸っこい男と、細っこい男の凸凹コンビが、シリカに気付いて近づいてきた。それなりに親しげに会話をしているところを見ると、どうやらシリカとは顔見知りのようだった。
「遅かったじゃん!心配したんだぜ!大丈夫だった?」
「な、な、今度パーティー組もうよ!」
すると、シリカは困ったような表情で、
「あ、あの……しばらく、この人とパーティー組むことになったので……」
と、ヘルメスのコートを引っ張ってきた。
「え?」
「そ、それじゃぁ!」
男たちの視線を感じながら、ヘルメスは引っ張られていく。
「ファンか?人気者なんだな、シリカさん」
「シリカでいいですよ。……マスコット代わりに誘われてるだけなんです。なのにあたし、舞い上がっちゃって。そのせいで、ピナが……」
シリカがうつむいたその時。ヘルメスは、大丈夫、と呟いた。脳裏には、かつて現実世界で最も近い所にいた義姉の顔が浮かんでいた。
「大丈夫。必ず間に合う。間に合わせる。だから泣くな」
「……はい」
シリカは涙をぬぐうと、にっこりと笑った。
シリカに吊れられてやってきたのは、いつも彼女が寝泊まりしているという宿屋だった。シリカがヘルメスを見上げて聞いてくる。
「ヘルメスさんのホームって、どのあたりなんですか?」
「一応は二十七層なんだが……一週間ほど野宿することになっても大丈夫なようになってるから、帰る必要は今のところないんだ。今日は此処に泊っていくかな……」
「ほんとですか!?ここのチーズケーキ、結構いけるんですよ!」
シリカが嬉しそうに手をたたいたその時。
「あらぁ、シリカちゃんじゃない」
シリカの表情が曇る。視線の先を追うと、そこにはドぎつい赤色の髪の毛の女が立っていた。年齢は二十代前半か。黒のレザースーツを着て、長い槍を持っている。
ヘルメスはその女に見覚えがあった。数日前、ギルド《シルバーフラグス》リーダー、フラッドに仇討ちとして監獄送りにしてほしいと言われた、ロザリアと言う女の
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