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秋雨の下で
第四章
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羽田も足は遅くはない。けれどあいつの足は特別や。そうそう防げるもんやない」
 そう言うとサインを出した。
 何時走って来るか、何球目か、広島のベンチとキャッチャーである水沼四郎は藤瀬から目を離さなかった。彼等も藤瀬の足は知っていた。
「来るか」
 一球ごとに藤瀬を見る。だが中々動かない。
 西本はその都度サインを送る。それが広島ベンチをより一層不安にさせる。
 四球目であった。藤瀬がスタートを切った。
「来たか!」
 セカンドとショートが一斉に動いた。水沼が送球に備えた。
 この時西本はヒットエンドランを指示していた。だがアーノルドはそれを見落としていた。
 アーノルドは振らなかった。単独スチールの形になる。だがそれだけで広島にとっては脅威であった。
 水沼は焦っていた。それがボールにあらわれた。
「しまった!」
 彼は思わず叫んでしまった。送球のタイミングは微妙なところであった。だがボールはあらぬところにいってしまった。悪送球だった。それを見た藤瀬は一気に三塁に向かった。
「まずい・・・・・・」
 水沼はそれを見て舌打ちした。藤瀬は三塁に達していたのだ。
 これを見た広島はアーノルドを歩かせることにした。外野フライで同点である。止むを得なかった。
 西本はまた動いてきた。アーノルドに代走を送ってきたのだ。
 吹石徳一。彼も俊足であった。広島にこうしてプレッシャーを与えてきたのだ。
「こういう時になると手堅く攻めて来おるわ」
 江夏は西本を見て言った。西本はそれに気付かないのか気付いていてあえて無視しているのか江夏には顔を向けない。ただ自軍のランナー達と次のバッターを見ていた。

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