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秋雨の下で
第三章
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ていると言っても過言ではないだろう。
 彼はよく選手達に拳を浴びせた。しかしそれは憎しみからくるものではなく愛情からくるものであった。彼は常に選手達のことを思いその成長を見守ってきた。
『西本さんの拳は鉄やり固く炎より熱い』
 これはよく言われることである。彼はその熱い心をもって選手達に向かっていた。それは大毎でも阪急でも近鉄でも変わらない。常に選手達にとって父親の様に厳しく、そして温かい男であった。
 その為こうした言葉が出るのだ。何処かにここまでやってくれた選手達を褒めたいという気持ちがあった。だからこそそう言うのだ。
 その西本が動いた。そして審判に何か告げた。
「代打か?」
 観客達は一瞬そう思った。だがそれはないだろうとすぐに思いなおした。
 次のバッターはクリス=アーノルド。あまり背は高くはないがパンチ力のある男だ。彼は右打者、替えるとは思えなかった。
「代走か」
 すぐにそう思いなおした。そう、西本は羽田の代走を告げたのであった。
「代走、藤瀬」
「遂に出てきおったか!」
 その名を聞いた時観客達は思わず声をあげた。藤瀬史郎、近鉄が誇る代走の切り札であった。それを見た広島ベンチにも衝撃が走る。
「遂に出て来ましたね」
 コーチの一人が古葉に対して言った。
「ああ」
 古葉は苦い顔をして答えた。
 藤瀬は小柄だがその脚力は群を抜いていた。シーズン代走盗塁記録を持っており西本のここぞという時の隠し玉として他のチームに恐れられていた。
 このシリーズでもその恐ろしさは遺憾なく発揮されていた。
 第二戦。七回裏のことであった。
 無死一塁、終盤に入り広島は江夏を投入してきた。

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