第二章
[2/2]
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
トしかなかったがそのどちらも怖ろしく鋭かった。華麗な投球フォームであり、またスタミナ、コントロール、安定感も群を抜いていた。
彼の外見は物静かな黒縁眼鏡の美男子であった。性格も静かで素直だった。そして誰からも好かれた。鶴岡は彼と長嶋を南海の看板にと考えていた。だが長嶋は巨人に獲られた。その時鶴岡は思わず杉浦に対してこう詰め寄ったという。
「長嶋は裏切ったぞ!杉浦君、君はどうなんや!」
関西球界の首領がこう言ったということがどれだけ怖ろしいことか。
これを聞いて長嶋は一時期心底怯えたという。野球ができなくなる、と真っ青になり鶴岡に謝ったこともある。裏の筋も何をするかわからない。相手は鶴岡である。本当に命の危険すら考えられた。
これをあちこちに頭を下げてことを収めたのが二人の大学の先輩大沢啓二であった。以後長嶋は彼に頭が上がらない状況だという。
話を戻そう。杉浦はそれに臆することなくこう言った。
「鶴岡さん、シゲのことは関係ありません。僕は男です、南海に行きます!」
鶴岡を前にしてこう啖呵を切ったのである。その整った顔立ちからは予想もできない程肝も座っていた。
鶴岡は彼に惚れ込んだ。そして彼を一年目から南海の看板とした。
杉浦はそれに応えた。抜群の安定感でもってチームに貢献した。
とりわけ二年目は驚異的な活躍をした。三八勝四敗。防御率一・四〇。シリーズでも四連投四連勝であった。文句なしの活躍であった。
「今は一人で泣きたい」
だが彼は静かにこう言った。そうした杉浦を世間は余計に褒め称えた。
そのボールを受けたのが野村である。だが彼に注目が集まることは少なかった。
「スギが、スギが」
鶴岡は杉浦ばかり可愛がった。チームの四番であり正捕手である野村にはことあるごとにつらく当たった。
「スギは素直で繊細なやっちゃ。けれどノムはちゃう。あいつはふてぶてしいところがある」
それが鶴岡の言葉であった。だがそれは違っていた。
「皆ノムについてどう思う?」
西本は阪急の監督をしていた時記者達についてこう尋ねたことがある。
「どうと言われましても」
丁度南海とのカードであった。向こうのベンチでは野村はいつもの通り何やらブツブツ言いながら試合の準備をしていた。
[8]前話 [9]前 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ