八幕 Sister Paranoia
2幕
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臓に流し込んで心停止させる。それでもマクスウェルのミラが正史世界に出られないなら、炎の算譜法でミラの死体を火葬する。
そこまで考えて、掌の先にマナを集中しようとした。
誰かがフェイの腰に飛びついた。
術式構築が崩れた。フェイは驚いてふり返る。見下ろす。エルがフェイの腰にガシッと抱きついている。
「お姉ちゃん。どうして」
「ミラをコロスなんてだめ! 絶対ダメ!」
エルの目には涙が滲んでいる。どんなに大変で危険でも絶対に泣かなかったエルが。
「エルの言う通りだ。フェイ、ミラも、簡単に死ぬとか殺すとか言うな」
ルドガーがエルに加勢する。ジュードを向けば、彼もルドガーと同じ意だとまなざしだけで分かった。
フェイは弱り果てた。
「何で? だって、ミラは分史世界の人だよ? もともと〈ここ〉にいないはずの人。いつ〈ここ〉から消えてもおかしくない人。なのに何で、お姉ちゃんもルドガーもジュードも、ミラがいなくなっちゃだめって言うの?」
すらすら零れる言葉たち。止められない。このままではあの黒い澱みまで流れ出してしまうのに。
フェイはしゃがんでエルと目線の高さを合わせ、なお訴える。訴える自分を止められない。
「お姉ちゃんはパパに〈カナンの地〉に行けって言われたんでしょう? 〈カナンの地〉に行くの、ミラのソンザイがジャマしてるんだよ。それでもお姉ちゃんはミラを庇うの?」
ぱしん…っ
とても頼りなく軽い平手打ち。押さえた頬がイタイ、アツイ。
ルドガーたちもぽかんと、フェイを叩いたエルを見ている。エルは唇を噛みしめ、今にも泣き出しそうだった。
「おねえ、ちゃ」
「あやまって」
ひく、と息を呑む。この姉がこんな怒り方をしたのをフェイは初めて見た。しかもその怒りの対象は――フェイ自身。
「フェイのバカ! ミラにあやまれ! ミラはジャマなんかじゃない! いなくなっちゃだめに決まってるじゃない!」
――エルは、フェイより、ミラを選んだ。
――妹の自分より、他人のあの人を。
ふらりと一歩よろめいてからは勢いだった。フェイは色のない髪を振り乱してその場から駆け出した。
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