暁 〜小説投稿サイト〜
土壇場の意地
第六章
[3/3]

[8]前話 [9] 最初
完全に忘れていた。だが二人はそれに構わず言った。
「わし等が奢るわ。好きなだけ飲んでや」
「・・・・・・まあくれる、ちゅうんなら貰うけれどな」
 彼はそれを了承した。だが何故奢られるのかはわかっていなかった。
 試合はこれで流れが止まった。結局延長十二回引き分けに終わった。
「勝てなかったか」
 森は疲れきった顔で言った。
「一勝するのは難しいということはわかっているつもりだが」
 その顔は土気色になっていた。
「それでも今日は勝ちたかったな」
 そしてベンチから姿を消した。西武が優勝するのはこれから一週間後の十三日であった。長く苦しいトンネルであった。
 近鉄ファンは彼とは好対照であった。思いもよらぬ引き分けに安堵していた。
「これが近鉄バファローズの野球や」
 球場を出る時老ファンは満足した顔で言った。
「見たやろ、最後の最後までお客さんを帰さへん野球や」
「ホンマやな」
 二人はその言葉に首を縦に強く振った。
「じゃあ後は酒屋でゆっくりと話しようか、胴上げみんで済んだし」
「ああ、約束通りじゃんじゃん奢ったるで!」
 三人は酒場へ消えた。そしてその言葉通り心ゆくまで酒を楽しんだ。
 これが近鉄の野球であった。それは藤井寺から大阪ドームに変わろうと何時までも変わらないものである。


土壇場の意地   完


                 2004・8・23

[8]前話 [9] 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ