第六章
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完全に忘れていた。だが二人はそれに構わず言った。
「わし等が奢るわ。好きなだけ飲んでや」
「・・・・・・まあくれる、ちゅうんなら貰うけれどな」
彼はそれを了承した。だが何故奢られるのかはわかっていなかった。
試合はこれで流れが止まった。結局延長十二回引き分けに終わった。
「勝てなかったか」
森は疲れきった顔で言った。
「一勝するのは難しいということはわかっているつもりだが」
その顔は土気色になっていた。
「それでも今日は勝ちたかったな」
そしてベンチから姿を消した。西武が優勝するのはこれから一週間後の十三日であった。長く苦しいトンネルであった。
近鉄ファンは彼とは好対照であった。思いもよらぬ引き分けに安堵していた。
「これが近鉄バファローズの野球や」
球場を出る時老ファンは満足した顔で言った。
「見たやろ、最後の最後までお客さんを帰さへん野球や」
「ホンマやな」
二人はその言葉に首を縦に強く振った。
「じゃあ後は酒屋でゆっくりと話しようか、胴上げみんで済んだし」
「ああ、約束通りじゃんじゃん奢ったるで!」
三人は酒場へ消えた。そしてその言葉通り心ゆくまで酒を楽しんだ。
これが近鉄の野球であった。それは藤井寺から大阪ドームに変わろうと何時までも変わらないものである。
土壇場の意地 完
2004・8・23
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