8『竜使いの少女』
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シリカは、アインクラッドでは珍しい《ビーストテイマー》だ。だった、という表現が正しいのかもしれないが。その証である使い魔モンスターは、もういないのだから。
ビーストテイマーは、システム上に規定された職業やスキルの名前ではない。ランダム発生するイベントによって、モンスターの飼いならしに成功した、ごく少数のプレイヤーに、賞賛とわずかなやっかみを込めて、いつの間にか誰かが使い始めた呼称だった。
テイミングの発生はごくまれだ。発生するのは小動物系のモンスターのみ、さらに同種のモンスターを殺しすぎていると発生しないらしいことが分かっている。モンスターに好物となる食べ物を上げると、ごくまれに赤色のカラー・カーソルが黄色に変わり、そのモンスターは《使い魔》としてプレイヤーの支えになってくれる。基本、モンスターはプレイヤーと敵対している攻撃性なので、意図してビーストテイマーになろうとしたら、同種のモンスターと遭遇しては逃げるという非常に困難で面倒くさいプロセスが必要となってくる。
その一点に関して、シリカは途方もなく幸運だったと言えた。気まぐれで降り立った下層のフィールドダンジョンで、敵対するはずのモンスターがなぜか友好的に近寄ってきて、しぐさがかわいかったから何とは無しにおやつに買っていたナッツを与えたらたまたまそれがそのモンスターの好物だった、と言うわけだ。
ふわふわしたペールブルーの体毛に身を包んだその小型ドラゴンモンスターの種族名は《フェザーリドラ》。そもそもがめったに出現しない超レアモンスターだった。シリカがそのドラゴンを肩にのせて、ホームタウンである第八層主街区フリーベンに戻ると、たちまち反響を呼んだ。早速フェザーリドラのテイミングに挑んだプレイヤーたちがいたらしいが、ついぞ成功したという話は聞かない。
シリカはそのドラゴンに、《ピナ》という名前を付けた。現実世界で飼っていた猫と同じ名前だ。使い魔モンスターは全て小動物系。つまりは戦闘能力系にはいわゆる「雑魚モンスター」なのだが、フェザーリドラがそれなりに優秀なモンスターであることも相まって、ピナは使い魔モンスターにしてはなかなか強力なモンスターだった。索敵・バブルブレス、そして少量のヒール。どれも便利な能力だったが、それ以上にシリカにとって大切なものとなったのは、ピナによってもたらされる安心感だった。
シリカはわずか十二歳でこのデスゲームにとらわれた。不安で押しつぶされそうだった毎日に、ピナと言うぬくもりがやってきたことによって、まるで現実世界のピナが来てくれたような気分になった。そこからやっと、この世界で生活する、という意味でのシリカの《冒険》ははじまったのかもしれない。
以
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