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王道を走れば:幻想にて
第五章、その2の4:弔い
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「心配しなくても、私と御主人でもうやっておいたよ。そいつが後生大事にしている南部産の宝石をね、ちょちょいとスったんだ」
「あ!あれってそういう意味なの?」

 にたりとほくそ笑む女盗賊。ユミルが二人へ振り返り、「中に入るぞ」。一度衣服の解れを正しながら、二人は教会へと目を向けた。
 一同は月明かりが差しこんだ教会のホールへと足を踏み入れた。改装とはなるほど、この事かと一見して理解出来た。信者が座るためのすべて長椅子は撤去され、タペストリーが外されたのか白い壁はがらんとしており代わりに脚立が掛けられていた。天井の梁の部分にも足場が組まれており、明かりがもう少しあれば置き去りにされた清掃用具などが見つかったかもしれない。足音と衣擦れの音だけが反響し、それに視線を返すかのように万物を見透かす主神の彫像が一同を見下ろしている。両腕をすっと開いている様は人間の罪なる行いを受け入れ、正すかのようであった。
 教会の壇上には既に弔いの準備が整っていた。ステンドグラスを背景に薪が段々と重ねられ、最期のその瞬間まで勇敢であった戦士の骸に見立てて三本の剣が薪に安置されている。剣の鞘に、本来されていない神聖な装飾が施されているのは教会側の計らいなのだろう。
 一同は薪を囲う。

「弔炎を」

 熊美とユミル、そしてパウリナがそれぞれ松明を持ち、三方から薪に寝かせた。火種がばちりと弾けて紅の明かりが点り、煙がくすぶり始めた。
 火が掌より大きくなったのを見ると、熊美は茨の模様が入った箱から、白い粉を一握りーー手が虎並に大きいためか、遠慮して指三本で掴んでいるーー取ると、ばちばちという薪にそれを投じた。

「異郷の地で敢然と戦った兵達に栄誉を込めて」

 仄暗い蒼い火が点る。ステンドグラスが湖面を跳ねる水の紋様のようにゆらめいた。橙色の光は鳴りを収めて薪は蒼い火を放ち、一同は光を浴びて身体を蒼く染めていた。
 人を葬り、祀り、その死を慰める。キーラは立ち上っていく炎を見ながら神言教の経典の一文を思い出した。『それのする全てのことを許し給う。イサクは右手に金の指輪を持ち、薪に蒼き炎をおこし給う』。きっと昔の人々も自分達と同じように、薪に骸を横たえて炎を燈したのだろう。そんな感慨をキーラは思わず抱いてしまう。
 箱を受け取ったユミルが、『弔炎』の粉末を握った。

「人間とエルフの架け橋となった全ての人達に」

 さっと投じられた粉は炎の勢いを更なるものとさせた。薪の内側から炎がぬらりと溢れて松明を掠めた時、手の甲が熱に煽られるのを感じた。色は変われど『火』そのものの性質は変わっていないのだろう。
 パウリナが箱に残った最後の粉末を取る。指の間から零さぬようきつく握ると、青々とした弔いの炎を睨んだ。

「私達の未来と、あいつの無事を祈って」

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