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王道を走れば:幻想にて
第五章、その2の4:弔い
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たのである。

「そうか!そうか!道理で宮廷で見かけないと思ったらそういう事か!」
「心配をおかけして申し訳ありません。魔術士の先生が御腹に負担を掛けてはいけないと仰せになるものですから」
「いやいや、先生は間違っておらんぞ!お前の身体を労わってのことなんだからな!いやはや、この歳になって新しい命の芽吹きに恵まれるとは!ブランチャードはますます繁栄するぞ!
 それにしても、どうして教えてくれなかったのだ。執政長官殿に頼めば手紙を送ることだってできただろうに」
「そんな事を言ったら浮かれて仕事に手が付かなりますわよ?あなたの事ですから、詩を作るのに夢中になってしまうのはすぐに想像できます」
「はははっ。良き妻は夫のすべてを理解していたか!」

 嬉しさのあまり男爵は蔵に保管していた一番の葡萄酒を開けんとしたが、愛妻のためにぐっと堪え、今はその腹に手を当てて鼓動に耳を当てていた。ミントは夫の喜びに笑みを浮かべるも、浮かぬように視線を外している。それは決まって、彼の注意が自分の表情に注がれていないのを確かめてからであった。
 夫婦水入らずの時間を邪魔しないよう、キーラは二階にある自室に入り、久しぶりの嗅いだ生活臭に懐かしさを覚えた。本棚に飾ってある書籍やフローリングが埃を被っていない事に、彼女は大きな愛情を感じる。一方で彼女に連れ添って部屋へと入っていたパウリナは、遠慮なく寝台に腰掛けて「折角なんだから二人と一緒にいなよ。いいの?」と問う。キーラは頭を振った。

「ええ。何となく居辛くて」
「まぁねぇ、何となく分かるな。今日くらいは夫婦水入らずの時間を作っておかなきゃって感じでしょ?寂しくないの?久しぶりに母親に会ったのに」
「それは勿論だけど、でもお父様だってそれは同じだし。だったら私よりも断然嬉しそうにしているあの人に、今日は時間を譲ってあげなくちゃ」
「かぁっ!キーラちゃんは偉いねぇ。お姉さん感動しちゃったよぉ」

 じゃれるようにパウリナはキーラに抱き付く。「もう、だめだよ」と静止しながらもキーラは満更ではないようだ。
 パウリナはふと顔を上げて、思い出したように手荷物を漁る。

「おっと、忘れるところだった。ほらこれ、御酒持って来たよ」
「ち、ちょっと!これって六十年もののやつじゃない!貴族階級でも最高級の逸品じゃ......どこから持って来たの!」
「そんなに怒らないでよ。宮廷のワインセラーから一本拝借しただけで、他は何も盗ってーーー」
「出しなさい、全部」
「信用まるで無いのね。分かったって、もう」

 あっさりと白状してパウリナは手荷物の中に入っていた戦利品を一つずつ露わとしていく。『そういえば彼女は盗賊だった』と、宮廷で見慣れている小道具がサックから次々と出てくるのにキーラは呆れかえっていた。

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