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王道を走れば:幻想にて
第五章、その2の4:弔い
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リアであった。声に出さぬよう静かに息を吐いて、冷淡な声色で言い放つ。

「....そうね。分からないわよ。二人に何があったかなんて。だから私とあなたは違うの。現実をそれぞれのやり方で受け止めなければいけない」

 王女は指を強く鳴らした。戸が開いてトニアが入ってくる。王女は反論を受け付けぬような声で言い放つ。

「アリッサ。あなたには自分自身を見つめ直す時間が必要よ。今夜の晩餐会に出席したら、二週間の休息を与えます。その間、私の護衛からも外します。都の外に王家の別荘があるからそこで静養なさい。任務、本当にご苦労様でした」
「....そう。それが決断ね。王女殿下の御采配のままに」

 敬礼をして、騎士は王女の部屋を後にした。コーデリアは海に沈むように柔らかなベッドへと倒れこむ。寂しさと哀しさが募ったように溜息を零すと、己の下へ戻ってきてしまった指輪を手放した。 
 宮殿の廊下を歩く二人の騎士は言葉を交わそうとはしなかった。宴の準備に追われている使用人らを遠目に、アリッサは自室へと辿り着く。

「少し休むわね」
「再開したばかりというのに、また離れ離れになるとは。残念です、姉上」
「トニア。身体に気を付けなさい。風邪を引かないように。私は頭を冷やす」

 アリッサはそう残すと、戸をぎぃと開いて身体を中へ滑り込ませた。億劫そうに閉ざされた戸に向かってトニアは複雑な面持ちを浮かべ、王女の警護をすべく道を引き返した。
 その夜、国王を前に執り行われた宴は、華やかな見た目とは違ってしんみとした空気に包まれ、主役の一人であるブランチャード男爵ですら得意の詩を詠うのと躊躇ったという。



ーーーーーー



 宮殿の騒がしさから一夜明けて、王都は常の平静を取り戻していた。春の訪れとともに始まった市場開き。北から下りてきた寒気に震えた思いを吹き飛ばすかのように、外縁部の貧民街でも、内縁部の貴族の通りでも賑わいが見られている。
 飛ぶように売れているのは葡萄から搾り取ったワイン、そして冬のあいだに熟成されたチーズである。酪農家が寒さに負けずに溜め込ん半月のようなそれが人気なのは、気の早すぎる豊作の前祝といった感じなのだろうか。去年もそうなのだから今年だってそうに違いない。一見楽観的な市民性ともいえるかもしれないが、その心には豊作を祈願する必死の祈りが貴賤問わずに存在していた。こんな世の中、ワインとチーズがなければやってられないというのが本心なのだろう。
 夕刻、茜色に染まる貴族街の一角にある館。宴後の細かな事務手続きや重臣らへの任務報告によってブランチャード男爵はくたくたとなっていた。しかし家で迎えてくれた妻の笑みを見ると、つられて笑顔となり、そして妻の膨れた腹を見て感極まったように喜んでいた。主神の奇跡が彼女の子宮に宿っ
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