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王道を走れば:幻想にて
第五章、2の3:エルフとの離別
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めた兎がまだ寒さを感じられる大地をてくてくと跳ねていた。
 エルフ自治領の中心であるタイガの森。その外れにある木の館で、エルフを総べる賢人らが集い、暖を取りながら会議を開いていた。職人手製の藁椅子に座り、陶器を砕いたものらしい青と赤の欠片が入った小皿を従者に用意させていた。賢人らはは冷静沈着に論議を進め、それを長老イル=フードがまるで最後の仕事を執り行っているかのように重々しく裁可していく。否。比喩ではなく、今日はまさにイル=フードが長老としての最後の職務を果たす日でもあるのだ。

「......それでは最後の投票に移る。エルフには新たな長が必要とされる。イル=フード殿の統治下ではエルフは生存すらままならぬ。食糧不足で多くの者が亡くなった。度重なる盗賊の襲来で、男だけでなく、女子供も数を減らした。現状を変えねばならん」
「ええ。あなたへの最後の敬意として、春までは待たせていただきました。この賢人会議で、職を辞していただけますか。イル=フード殿」
「是非も無し。私は道を誤り、多くの者を犠牲にしてしまった。その報いは受けるべきだ」
「賢人の掟に従って、道を誤った長老は職を辞した三日後、エルフの炎にかけられる。それでもよろしいですな」
「ああ。それでいい」

 最初からこの末路がくることを予想していたのか。議論すら不要とばかりに、イル=フードはあっさりと自らの辞職と処刑を了承した。参加者らはその覚悟に驚くことはなく、寧ろ当然とばかりに顔を見合わせ頷き合っている。
 賢人の一人が言ったように、昨年の秋の終わりには壮烈な賊徒との死闘が発生し、エルフは多大な死傷者を抱えてしまった。心無い者が「冬越しを前に口減らしができた」と零していたが、その者とて戦いの直後にきた雪嵐を前にしては閉口せざるを得ず、ボロの家屋で己の因果を呪う羽目となってしまった。
 戦火と厳冬という二つの艱難を乗り越えたエルフはまさに満身創痍。子供の泣き声が少なくなったと老人が嘆く様がちらほらと見える。で、あるからこそ、この艱難辛苦の到来を予期し得なかった、または予期しておいて他の政策に手を廻した長老は全責任を取らなければならない。イル=フードの辞職はエルフ全体の総意でもあるのだ。

「では新たな長老をここで決めましょう。といっても、候補は一人しかいませんけれど。そうでしょう?」

 誰かが「その通り」と声高に言う。「ニ=ベリ殿がもっとも相応しい」、「孫を助けてくれた恩義がある。どうして反対できようか」との声は、東の村々の賢人らだ。ニ=ベリはそれらに深く頭を下げて礼儀を示す。次のエルフの長老たるべき風格は十分に備わっていた。
 ここまで議論の音頭を取っていた女の賢人、ソ=ギィは火を見るよりも明らかな議題に笑みを浮かべつつ、言い放った。

「では、投票と参りましょう。ニ=
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