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無慈悲な時の流れ
第六章
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い!」
 何と有藤が牽制球を巡って抗議をしだしたのだ。時間稼ぎと言う者が多いが真相は今尚不明である。元々血の気の多い男である。抗議などはしょっちゅうであった。
 だがこの時は場が普段とは全く違っていた。有藤はそれがわかっていたのであろうか。
「時間稼ぎなら悪質ですね」
 テレビ朝日のアナウンサーはこう言った。彼もまた近鉄の優勝を願っていたのだ。
「やめんかい!」
「引っ込め!」
 ファンから罵声が飛ぶ。そして有藤はようやくベンチに戻った。
「阿呆が・・・・・・」
 日本の殆どの者がそう思っただろう。無駄に時間を浪費してしまった。それは何よりも近鉄ナインにとっては致命的なことであった。
 十回表、羽田耕一の打球は空しく併殺打となる。ヘッドスラィディングも空しくアウトとなった。
 羽田は一塁ベースの上に崩れ落ちた。無念であった。
 かって西本幸雄にそのスイングを見出されて近鉄のスラッガー候補として手取り足取り教えてもらった。だが不器用な男でありその成長は遅かった。時には鉄拳制裁も浴びた。
「高めのボールに手を出すなというのがわからんかあ!」
 阪急戦であった。彼は阪急の誇る速球王山口高志のボールを空振りした時そう怒鳴られ殴られた。その拳は確かに硬かった。だがそれ以上に熱かった。彼もまた西本の想いを拳を通じてわかっていたのだ。
 彼は地道に努力を続けた。そして遂に近鉄のスラッガーの一人となったのである。
 西本はよく羽田を話に出した。彼にとっても羽田は愛弟子であったのだ。
「西本さんを悲しませることだけはせん」
 彼はいつもそう思ってプレイしていた。だが今こうして無念の一打となった。
 後日西本はそんな彼を全く責めようとはしなかった。ただ普段通りに接しただけであった。
「野球をやっていれば色んなことがあるもんや」
 西本はこう言った。
「気の抜けたプレイや不真面目なプレイはいかん。そやけどな」
 彼は言葉を続けた。
「全力を尽くした上でやと仕方がない。その時の運不運もあるしな」
 八度のリーグ優勝を果たしながらも遂に日本一にはなれなかった男の言葉である。
「わしっちゅう人間の甘さかも知れんけれどな」
 彼は苦笑してそう言った。
「けれどここまで来た、それだけでも凄いと思う時があるやろ。選手達はようやった、ってな」
 その言葉に反論を唱えられる者はいなかった。それこそが西本の持つ人間としての優しさ、そして温かさなのであった。だからこそ多くの者が彼を師と慕うのである。
 羽田は無念に思った。だが時は流れている。彼は起き上がるとすぐに守備に向かった。あと九分。
「もう投球練習なんかいらんわい!」
 その回マウンドを任された加藤哲郎はこう叫んだ。最早近鉄にとっては少しでも時間が欲しい。しかし。
 時間となっ
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