第二章
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それは皆同意見であった。次の試合からはロードだ。やはり優勝、そして胴上げは本拠地で見たい。そういうファンがドームに詰め掛けていたのだ。
北川は打席に入った。そして大久保を見た。
「よし」
だが大久保も負けてはいない。ここで意地を見せた。彼もルーキーで抑えを任されたプライドがある。
忽ちツーナッシングに追い込む。それを見たファンは駄目かと思った。
「ゲッツーだけはやめてくれよ」
北川は併殺打の多い男であった。どういうわけか勝負強さとそれは裏返しのような関係であったのだ。
「あの二人にまで繋ぐのは難しいかな」
梨田は北川を見てそう呟いた。あの二人とは言うまでもなく近鉄の二人の主砲ローズと中村である。
大久保は一球外した。これでツーストライクワンボール。だが投手有利な状況には変わりない。
「ゲッツーだけは勘弁してくれよ」
それは近鉄ベンチ、そしてファンの共通の考えであった。皆北川を祈るような目で見ていた。
「ここで見たいんや」
「頼むで」
祈るように見る者もいた。だがそこにいる者は皆奇蹟を信じていたわけではなかった。ただ繋いでくれることだけを期待していた。
大久保が投げた。そのボールを見た瞬間北川は思った。
「いける!」
打てる、そう確信した。ボールの動きにバットを合わせる。
スライダーであった。北川はそれをすくい上げた。そしてバットに乗せそのまま振り切る。
ボールは高く上がった。そしてそれはゆっくりと天を舞った。
「何ッ!」
それを見た近鉄ベンチが思わず総立ちになった。そしてボールの行方を見守る。
「まさか・・・・・・」
ボールは落ちていく。その場所は。
バックスクリーンの左奥であった。ボールはそこに飛び込んだ。
「な・・・・・・」
それを見て呆然となったのは近鉄ナインやファン達だけではなかった。オリックスのベンチにいる仰木も思わず我を失った。
入った。ホームランである。サヨナラだった。
ただのサヨナラではない。代打逆転サヨナラ満塁ホームラン。長い我が国のプロ野球の歴史においても数える程しかない極めて稀少なサヨナラアーチである。
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