第百五十三話 雲霞の如くその六
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「我が軍は十五万です、それに対して敵は十二万です」
「多いのう」
川尻からその数を聞いてだ、信長は呟く様に言った。
「それだけおるとな」
「はい、相当な相手ですな」
「油断は出来ぬ」
それは決してだというのだ。
「だからじゃ、ここはよいな」
「慎重にですな」
「焦ってはならぬ」
それは決してだというのだ。
「慎重に攻めよ、むしろじゃ」
「むしろですか」
「相手の方から来る」
門徒達の方からだというのだ。
「だからここはじゃ」
「守りを固めるのですな」
「皆陣を整えよ」
攻めることなくだ、そうせよというのだ。
「よいな、そして攻めて来た敵をじゃ」
「退けてそのうえで、ですな」
「後の先じゃ」
それが織田家の今の戦い方だった、攻めるよりもというのだ。
「敵が攻めてきたところを防いでじゃ」
「そのうえで攻める」
「反撃に転じ」
「うむ、鉄砲の用意をしておくのじゃ」
とはいってもすぐには撃たないのだった。
「よいな、攻めて来る相手にじゃ」
「鉄砲を撃つのですな」
「そして弓矢も」
「そうじゃ、まだ攻めてはならぬ」
決してだというのだ。
「わかったな」
「はい、さすれば今は」
「待ちましょうぞ」
家臣達も応える、こうしてだった。
織田家の十五万の大軍は動きを止めた、そのうえで今は守りを固める。門徒達はその彼等を見てまずはいぶかしんだ。
「どういうつもりじゃ」
「攻めぬのか」
「あれだけの数がありながら何故じゃ」
「攻めぬのは何故じゃ」
それがわからなかった、戦については素人の彼等は信長の意図が見抜けなかった。それで戸惑ったのだ。
「どういうつもりじゃ」
「まさか援軍か?」
ここで誰かが言った。
「援軍が来るのか」
「それで止まっておるのか」
「それでなのか」
こう考えだした、そしてだった。
彼等はこの十二万だけではなかった、このことは無論信長も知っていた。既に放っている忍の者達から聞いているのだ。
それは今もだった、信長に滝川が話す。
「十二万の軍の他にです」
「まだおるな」
「はい、その後ろかからさらに十万です」
「合わせて二十二万か」
「それだけの軍勢が来ております」
「多いのう」
その数を聞いてだ、信長は静かに言った、だがそれでもだ。
彼は言うのだった、その十五万の軍勢に対して。
「しかし動くな」
「敵の数が二十二万になろうとも」
「うむ、そうじゃ」
こう滝川にも言う。
「落ち着いてじゃ、ここはじゃ」
「守りを固め」
「そして攻めた時に」
まさにその時にだというのだ。
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