第百五十三話 雲霞の如くその一
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第百五十三話 雲霞の如く
まずは長政と彼が率いる浅井家の軍勢が越前に入った、その入口がある金ヶ崎城はまだ安泰であった。
だが、だ。そこからすぐ東はというと。
「最早すぐそこまで迫っているそうです」
「門徒の大軍が来ております」
「前波殿は討ち死にしました」
「朝倉家の方々も」
「左様か」
長政は丁度金ヶ崎城にいた、そこでほうほうのていで城まで逃げて来た者達からの話を聞いていた、そのうえで言うのだ。
「では我等が来るのがもう少し遅ければ」
「はい、この金ヶ崎もです」
「危ういところでした」
「門徒の数が多過ぎまして」
「とても防げません」
「この城も攻め落とされていました」
長政とその軍勢が来なければというのだ。
「そうなっていました」
「完全に」
「左様か、ではじゃ」
「はい、殿が来られるまでですな」
「この城を」
守るのだとだ、城の者達は言うのだった。
だがここでだ、長政はこう言うのだった。
「いや」
「いや?」
「いやとは」
「ここは誰もが籠城だと思うな」
「はい、それは」
「おそらく」
敵の数が多いうえに援軍が来るのは間違いない、それならば確かに籠城が常道だ。それで彼等も言うのだ。
「誰もがそう思います」
「籠城すると」
「しかしじゃ」
だがそこをあえてだというのだ。
「攻めるのじゃ」
「そして、ですか」
「敵を討ちますか」
「夜討ちをかける」
そうして攻めるというのだ。
「ここはな」
「夜討ちですか」
「ここは」
「そうじゃ、それじゃ」
まさにだ、それを仕掛けるというのだ。
「わかったな」
「ここで夜討ちですか」
「またそれは激しいですな」
「思い切ったことかと」
「だからよいのじゃ」
誰もが籠城と思うからこそだというのだ。
「派手に仕掛けるのじゃ」
「その夜討ちをですか」
「そうされますか」
「そうじゃ」
まさにそうだというのだ。
「仕掛けるとしよう」
「門徒の数は十万を超えていますが」
それに大して長政が率いる浅井の軍勢は一万程だ、数にしては比べること自体が間違いである程である。
「それでもですか」
「夜討ちを仕掛けられますか」
「うむ、そうする」
長政は確かな顔で答える、微笑みさえ浮かべて。
「印をつけてな」
「印をですか」
「夜討ちに出る者は皆白い布をその身に着けよ」
闇夜の中でも白は光るからだ、それでだ。
「そうせよ」
「わかりました、では」
「そうして」
「出るのは丑三つ刻じゃ」
その時間のことも話される。
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