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二つの意地
第四章
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れを支えていた。
 どうにもなるものではなかった。結局試合はそのまま終わった。両投手の力投が光った試合であった。だが近鉄にとってはあまりにも痛い敗戦であった。
「負けたか」
 仰木は一言呟くと背を向けた。そしてベンチか消えた。
「・・・・・・・・・」
 権藤はその背中を見送っていた。彼も一言も言葉を発しない。
「三勝か」
 権藤はようやく言葉を出した。あまりにも思い言葉であった。
 口に出すのは容易い。だが実際に行うとなれば非常に難しい。だが諦めるわけにはいかなかった。
「残り試合全て勝つ!」 
 選手達は満身創痍の状況でもまだ立っていた。彼等は最後の最後まで諦めてはいなかった。
 負けるわけにはいかなかった。だがそれは近鉄だけではなかった。
「うちも負けるわけにはいかんかったんや」
 上田は試合が終わった後ポツリ、と言った。
「近鉄の事情はよくわかっとるわ。しかしな」
「しかしな!?」
 記者達はその言葉に注目した。上田の顔が一瞬泣きそうなものになったからだ。
「いや、何でもあらへん」
 上田はそれに対して首を横に振った。
「けれどすぐわかるかもな」
 それだけ言い残して球場から消えた。
「上田さんどうしたんだ!?」
 記者達はそんな彼の背を見ながら首を傾げていた。
「まるで奥さんに死に別れたみたいな顔をして」
「ああ、そういう顔だったな、さっきのは」
 彼等はこの時にはまだ知らなかったのだ。二日後のもう一つの舞台を。
『阪急ブレーブス、オリックスに身売り』
 その衝撃的なニュースが川崎球場の死闘と共に日本中を駆け巡った。記者達はこの時ようやく理解した。
「だから上田さんあんな顔しとったんか・・・・・・」
「そら悲しいやろな・・・・・・」
 彼等も上田の心情を察した。彼にとって阪急は何にも替え難いものであるのは言うまでもないからだ。
「残念なことやけれど事実や」
 上田は選手達にそのことを説明した。しかし涙は流さなかった。
「球場はここや。今までと同じようにやったらええ」
「はい」
 選手達は頷いた。だがそれでもその心は動揺していた。

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