第二章
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攻撃であった。三回裏である。
ヒットと四球二つで無死満塁となる。阪急にとっては絶好のチャンス、近鉄にとっては絶体絶命のピンチである。
「どうなる!?」
両チームのファンは固唾を飲んで見守る。ここで点が入れば試合は一気に阪急に傾く。
だが阿波野はここで踏ん張った。何と三者連続三振に討ち取ったのだ。
「よっしゃあ!」
近鉄ファンは思わず立ち上がった。
「クッ・・・・・・!」
阪急ファンはそれに対して思わず歯噛みした。あまりにも対照的であった。
阿波野はこのシーズン二年目であった。その投球は新人王と獲得した一年目から大きく成長していた。
「投手の肩は消耗品だ」
この年から投手コーチに就任した権藤博はまずこう言った。
「あまり投げる練習をするな。最低限でいい。それよりも足腰を鍛えろ」
連投により短いものに終わった自身の選手時代から得た経験でこう教えたのだ。実際にトレーニングはランニング主体のものとなっていった。
これが阿波野には大きなプラスとなった。スタミナが飛躍的に伸びたのだ。
そして権藤は投手陣に対してこうも言った。
「四球は四つ出して一点だ。だからそれ程怖れる必要はない」
これが投手陣にとって精神的に大きな余裕になった。
「四球を怖れてコントロールに乱れが生じたらそれだけで駄目だ。甘いところに入ってホームランを打たれたら何にもならない」
権藤はここでも独自の理論を展開させたのだ。
これに気を楽にした投手陣はかえってノビノビと投げた。ピッチャーが繊細なものであることをよく認識しているからこそ言える言葉であった。
彼は時には仰木と衝突した。それは投手を庇ってのことであった。
「どんなチームに勝っても一勝は一勝だ。西武にこだわる必要はない」
彼の意見はこうであった。西武を何としても倒そうとする考えは同じでも一勝に対する考えは違っていたのだ。
仰木の采配は知略ではあった。だがそれは師である三原脩のそれに近いものであった。『仰木マジック』とさえ呼ばれていた。
権藤の考えはこれとは違う。彼もまた独自の考えを持っていた。
これには元々のポジションが関係していた。仰木はピッチャーとして入団したが現役時代はセカンドであった。
それに対して権藤はピッチャーだ。野手に転向したりもしたがやはり彼はピッチャーであった。その独自の指導も投手の視点からくるものであった。
権藤は流れを重要視する。仰木は時として流れを強引にこちらに引き寄せようとする。
これはどちらが正しいとは言えない。だからこそ二人は衝突するのだ。ピッチャーとセカンドでは見るものが全く違ってくるのだ。
権藤の考えは投手陣にとっては有り難い。だが仰木にとっては目の上のタンコブだ。二人の亀裂は次第に深まっていくのであった。
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