第一章
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第一章
二つの意地
勝たなければいけない時がある。それが一方だけならば問題はない。しかし双方に勝たなければならない何かがあると話は複雑になり激しくなる。
あの日もそうであった。伝説の前に掻き消されてはいるが決して記憶に残らないようなものではなかった。
昭和六十三年十月十七日、この日近鉄は西宮球場にいた。
「あと三勝か」
近鉄の監督仰木彬はポツリと言った。この時近鉄には優勝マジック3が点灯していたのだ。
あと三勝、口で言うのはたやすい。
しかし残り試合は僅か四試合、一敗も許されない状況である。
そうした中近鉄ナインは必死に戦っていた。最後の最後まで諦めてはいなかった。
「優勝するんや!」
「絶対西武に勝つんや!」
彼等は口々にこう言った。一時は八ゲーム差と絶望的なまでに開いていた状況を何とかここまでもってきたのである。
今日の相手は阪急であった。
「今日も勝つぞ!」
その様子を阪急の監督上田利治は一塁ベンチから見ていた。
「近鉄は凄い気迫やな」
彼の顔は普段と変わらず穏やかであった。
だが普段とは何かが違っていた。何処か陰があるのだ。
「ええな、ああして気迫がみなぎっとると」
このシーズン阪急は絶不調であった。長い間チームを引っ張ってきた山田久志と福本豊に限界が囁かれていたのだ。
阪急の黄金時代を支えたこの二人の衰えはチームにとって深刻であった。そう、この時阪急は世代交代の荒波の中にあったのだ。
世代交代はまだよかった。上田には陰を作らざるを得ない事情があった。
「お客さん等には何て言うたらえんやろな」
観客席を見る。彼等はいつも阪急を応援してくれている。
数こそ少ない。阪急はお世辞にも人気のあるチームとは言えなかった。
「阪急の素晴らしさを知らへん奴や野球を知らへん奴や!」
「そうや、野球は阪急、パリーグや!」
だがファンはそれにはめげなかった。昭和五十一年のシリーズにおいてはまさに全国から駆けつけてきた巨人ファンなぞものの数とせず後楽園で応援してくれたのだ。
「それを思うと」
上田はそのことを一日たりとも忘れたことはない。あれ程有り難いと思ったことはなかった。
「そしてこいつ等にも」
目の前では阪急ナインが試合前の練習を行っている。彼等は阪急のユニフォームに誇りを持ってプレイしていた。
阪急ブレーブスとしての誇り。彼等はそれを常に心に持っていた。
それは隠してなぞいなかった。人気の問題ではない。どこぞの球団に金に目が眩んで入り何の活躍もせず無様に退団する様な男達ではなかった。
彼等もまた上田の誇りであった。彼等と共に野球ができることが何よりも嬉しかった。
「だからこそ勝ちたいんや」
上田は
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