第一章
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思った。
「いや」
ここで首を横に振った。
「勝ち負けはええわ。それも野球の常や」
そう思うことにした。だが野球人の心が彼にこう言わせた。
「全力でやったる。そして悔いのないようにしたる」
彼は後でナインに対して同じ言葉で激を飛ばしている。彼には必死にならざるを得ない事情があった。
近鉄もそれは同じだ。優勝がかかっているのだ。
「あの試合は仕方なかったけれどな」
仰木は振り返るように言った。
あの試合とは十五日のことだ。大阪球場での南海ホークスとの試合だ。
この試合は南海の大阪球場での最後の試合であった。この時既にダイエーに身売りされることが決まっていたのだ。
球場にるのはほぼ全て南海ファンであった。彼等はその目に南海の雄姿を焼きつけようとしていた。
「最後や、これが最後や!」
「納得いくまで見たるで!」
ファンの中には泣いている者もいた。南海もまたファンに心から愛されていたチームであった。
勝てる筈がなかった。南海の選手も必死だった。結局近鉄は相手に鼻を持たせる形となった。
「では行って参ります!」
南海の監督杉浦忠は大阪球場を埋め尽くす南海ファンに対してこう言った。球状全体に緑の鷹の旗が翻っていた。
最後のパレードでは花吹雪が舞った。彼等は最後までこのチームとの別れを惜しんでいた。
「負けて悔いがないわけやない」
痛い敗北であった。翌日の藤井寺ではその南海に勝っている。それでも痛かった。
「不思議やな」
仰木は上田を見て呟いた。
「ウエさんにはあの時のスギさんに似たもんを感じるわ」
近鉄、阪急、南海。この三球団は親会社が関西の鉄道会社同士であったこともあり何かと縁があった。チーム同士の中も決して悪くはない。特に近鉄と阪急は西本幸雄という監督を共に戴いていただけあり兄弟球団と言ってもよかった。好敵手同士であった。
多くの死闘を演じてきた。近鉄の監督に三原脩が、阪急の監督に西本がいる時からであった。
「昭和三十五年のシリーズの再現やな」
ファンはこの対決にいろめきだった。これは西本が勝った。
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