第51話 「男子の名前」
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いる。
帝国よりも同盟の方が戦争を、ゲーム感覚で行っているのかもしれない。
いったいどこで差がついたのだろうか……。
「皇太子殿下」
「宰相閣下」
俺とオーベルシュタインがほぼ同時に口にした。
俺が頷くとオーベルシュタインが、一つ頷いて口を開く。
「宰相閣下はこの戦争を終わらせる事を、現実のものとして示しておられる。帝国では戦争が終わった後の事を考え出した。貴族や役人だけでなく、平民達ですら、だ」
「百五十年続いた戦争を終わらせるのだ。奇麗事で終わるはずもない」
「それをうすうす感じている者たちと、実感として感じていない者の差だ」
「同盟には強力な指導者がいない。己の意思を通せるような政治家がいない。残念ながら扇動政治家の群れらしい」
「そんな連中を相手にしなければならないのだから、宰相閣下もご苦労な事だ」
こいつも言うようになったものだ。
まあそれはともかく、我々もまだ見ぬ王子の誕生を祝おうじゃないか。
そう言ってとっておきのワインを翳して見せると、オーベルシュタインも軽く笑みを浮かべた。
■ブラウンシュヴァイク領 オットー・フォン・ブラウンシュヴァイク■
「我がブラウンシュヴァイク領も、クロプシュトック領に負けてはならぬ!!」
壇上で声を張り上げる。
農奴の子どもらに、強制的に教育を受けさせる。それはクロプシュトック領から始まった。
宰相閣下の許可を得たヨハン・フォン・クロプシュトックが動いたのだ。
このままでは後れを取ってしまう。
負けてたまるものかという思いが、わたしとリッテンハイムを動かした。
競うように公務の合間を縫って、準備を行い。ようやく形になったのだ。今頃はリッテンハイム領でも同じように声を張り上げている事だろう。
「学問の重要性はわたしとて、十二分に理解しているつもりだ。一歩先んじられてしまったことを、ここに詫びよう。ようやく諸君が学ぶための用意は整えられた」
農奴の子や貧しい平民の子が並ぶ。
どの顔にも希望が溢れている。明るい未来を夢見ているのだろう。
幼い子どもの特権だ。
壇上の脇で妻のアマーリエが笑みを浮かべている。皇族である妻の存在は彼らには眩しく見えているらしい。
そうだ。そうなのだ。
帝国が、皇帝が、あの皇太子殿下が、彼らを見捨てていない事の何よりの証だ。
「古来より、牛を水飲み場に連れて行くことは出来ても、無理矢理飲ませる事はできないという。わたしに出来るのは、ここまでだ」
壇上から居並ぶ子らを見回す。
「学問という水を無理矢理飲ませる事はできない。だが、飲め。たらふく、貪欲に飲むのだ。それは諸君の血となり、肉となろう」
息を吸い。呼吸を整えた。
そしてこぶしを
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