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早過ぎた名将
6部分:第六章
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逆転、駄目押しの得点が入った。オリックスナインはそれを見てその場に崩れ落ちてしまった。
「まさかこんな・・・・・・」
 特に平井の落胆は酷かった。もう涙まで流していた。
「残酷なようだがこれも野球だ」
 バレンタインはマウンドを降りる平井を見てこう言った。
「こっちにとっては気持ちのいい攻撃も相手にとっては苦痛となる」
 それは真理であった。スポーツとはそういうものだ。
「だがこれでこの試合は決まった。
 彼は動いた。そして予定の投球を越えたヒルマンを降板させた。マウンドには河本が立った。これで勝負は決まった。
 試合はロッテの勝利に終わった。オリックスはこうしてこの三連戦一勝もできず本拠地での胴上げは果せなかった。神戸市民にとっては断腸の三連戦であった。
「ここまできて戸惑うとはな」
 仰木は顔を顰めさせていた。まさか敗れるとは思っていなかったのだ。
「神戸のお客さんには悪いことをした」
 そしてベンチを後にする。そこを報道陣が取り囲む。
「負けるべくして負けた試合やな」
 山田は一人ベンチに残り腕を組んでいた。ベンチにはもう誰も残ってはいない。
 明らかな采配ミスであった。それは彼にはよくわかった。
「平井には悪いことをした」
 まずそう思った。
「今日は流れに従うべきやったな。それに逆らったら碌なことはあらへん」
 それは今までの現役時代の経験でよくわかっていた。だが仰木もそれは同じ筈であった。むしろ彼の方がそうした流れを読むことは遥かに上手い。
「その筈なのにな」
 ふと仰木への疑念が湧いた。
「やっぱりわしの方がええかな、監督は」
 彼もまたいずれは監督になりたいと考えていた。ましてやこのオリックスはかって阪急であった。自分の古巣だ。
「このチームのことやったら何でもわかる」
 伊達にこのチームで現役時代の全てを過ごしてきたわけではなかった。彼は西本、梶本、上田の三代でエースとして活躍してきたのだ。

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