3部分:第三章
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第三章
「悔しいな」
一塁側スタンドを埋め尽くす神戸市民を見てナインは呻く様に呟いた。
「折角来てくれたのに」
彼等は何としても地元で胴上げを達成したかったのだ。
震災に遭いながらも応援に来てくれた人達、ナインは彼等に深く感謝していた。
だからこそ胴上げを見せたい、だがそれは今日も適わなかったのだ。
「明日こそは」
そう決意して球場を後にする。だがその心は日増しに焦りを増していた。
翌日の第二戦、オリックスの先発は長谷川である。やはり必勝態勢だ。それに対してロッテは昨日の伊良部とは正反対のピッチャーを先発のマウンドに送り込んでいた。
小宮山悟である。多彩な変化球と頭脳的な投球で知られる。特にコントロールは抜群で『ミスター=コントロール』とも仇名されていた。
「嫌な奴が出て来たわ」
神戸市民は予想していたこととはいえ彼の顔を見て思わずこう言った。
「打ちたいところやが難しいやろな」
小宮山はとにかく頭が切れる。理詰めで投球を組み立てバッターの心理を読み取る。まるでコンピューターの様な男である。
独特のサングラスを着けた。そして小宮山のピッチングがはじまった。
まずはイチローである。だが小宮山は怖れてはいなかった。
「イチローならこれだ」
ストレートとシュートを巧みに使い揺さぶる。そして最後は外角のボールを引っ掛けさせる。こうしてオリックスの切り札を何なく打ち取った。
「イチローは普通のバッターとは違う」
彼もそう考えていた。
「ストライクゾーンが他のバッターよりもずっと広い」
しかしそこが付け込むところであった。
それを利用して引っ掛けさせる。三振の極端に少ないバッターだが、こうして打たせてとればいい。イチローのそのミートの巧さとストライクゾーンの広さを逆に利用したのだ。
「オリックス打線は相手をしやすい」
小宮山はそう考えていた。
「足も絡めてこないし、全体で崩そうともしてこない。あくまで一人一人との戦いだ」
そうなれば彼の得意とするところであった。こうしてオリックス打線は小宮山に各個撃破されていった。
ロッテ打線は彼の好投に応える。二回、四回、七回に小刻みに得点を重ねていく。長谷川も好投するが打線が沈黙していた。かろうじて五回に高橋賢のソロアーチで一矢報いるのがやっとだった。
そして八回からはまた中継ぎ陣を投入する。そしてこの日もオリックス打線を抑えたのである。
「今日もか」
オリックスナインは思わず溜息をついた。
「あと少しなのに」
プレッシャーがその両肩に覆い被さってきた。
「勝てない、あと一勝なのに」
確かにあと一勝だ。だがそれでも勝てないのだ。
野球は一勝一勝積み重ねていくものである。しかしその一勝を掴むのには血の滲む様な戦い
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