第3部:学祭2日目
最終話『交差譚詩曲(クロスバラード)』
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…西園寺さん……」
「……世界……」
唯と誠は、思わずつぶやいた。
「伊藤!」
唯を抱きしめたまま、澪は一瞬、誠と見つめあう。
穏やかだが、やや口ごもる澪。その表情は、切なさが混じっている。
「秋山さん……」
「伊藤……。
幸せに……なってくれよ……」
悲しげな表情で、囁くように言ってから、澪は目をそむけた。
誠は、そんな澪と、彼女の胸元で泣き伏す唯を見て、心が冷える気分になっていた。
でも、それはしょうがないんだ。
それが優しさということもあるかもしれない。
これで、いいんだ。
「……じゃあ俺、ちょっと3組の手伝いをしなければいけないので、行きますね。これからもよろしく。」
そのまま、彼は一度も振り返ることなく、言葉とともにさっそうと去って行った。
「伊藤……」
呟く澪。
窓を見ると、緋色の夕日が榊野の校舎を照らしていた。
つるべ落としに夜が来て、街が七色のイルミネーションを輝かせていたころ。
ムギの会社の系列のホテルの、高級レストラン。
穏やかな光が、白い部屋を照らし、それを分厚いガラスが取り囲む。
ケーキバイキングに来たのだが、ずっと唯は泣いてばかり。
皆がじろじろと見るので、すぐにトイレに行ってしまった。
律はもう少し彼氏づくりを粘ると言って、榊野に残っている。
残りの3人で5人がけのテーブル席に座り、夜景が空の星のように輝くなかで、めいめい好きなケーキを食べ始めた。
「唯先輩、大丈夫でしょうか……」
「あれからずっと泣きっぱなしだな……。でも、そっとしておいた方がいいかもしれない」
唯を案ずる梓に、澪は静かな声で言った。
「伊藤も言葉を彼女と決めたからには、言葉に嫌がらせをする人もいなくなるよな……」
呟く澪に、ムギははっとなり、
「あ、澪ちゃん……」
「ん?」
ムギは、急に席を立って、澪の前に膝をつき、
「実は甘露寺さんに、澪ちゃんの家を教えたの、実は私なの!
甘露寺さんが澪ちゃんに目を付けているのをわかっていながら……。
本当に、ごめんなさい!!」
太い眉をすぼめながら、ムギは床に額をぶつけるほど深く、土下座をした。
「ムギ……」澪は思わず瞠目しながら、「もういいよ……」
「本当、もうこれ以上榊野生徒と付き合うの、いやになっちゃいましたよ」梓は一口ケーキをやけ食いしながら、「でも、付き合わなければいけないんですよね」
「でも梓ちゃんだって、清浦さんとは気兼ねなく話をしていたそうじゃない」
「清浦は学級委員ですからね。ましな方ですよ」梓はケーキについてきたポッキーを口にくわえながら、「あれから、沢越止はどうなったんですかね……?」
すると、ムギが、
「私の会社で、去勢の手術をする予定ですよ。もう二
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