第3部:学祭2日目
最終話『交差譚詩曲(クロスバラード)』
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この2人は、これでいいのだ、と思った。
「よかったな、伊藤……」
穏やかな表情の澪を見て、彼は、
「もしよければ俺も、みんなとこれから仲良くしていきたいんで、放課後ティータイムファンクラブに入れてくれませんか?」
「そうだな」
「ええ、構いませんよ」
澪とムギは、笑顔で答えた。
律と梓も黙認する。
ふと誠は、さわ子先生が自分の父親に襲われたことを、皆に打ち明けなかったことを思い出した。
話そうかとすると、言葉が心を読んだのか、
「誠君、言わぬが花ということもあります。
放課後ティータイムや平沢さんと付き合いたいならば、言わないほうがいいと思いますよ。」
小声で進言してくる。
それもそうなのか。
でも、言わなければ……。
「1つ、言っていなかったことがあるんです」誠は低い、重い声で、「放課後ティータイムの顧問、確か、さわちゃん先生と言ってましたよね」
「ええ……そうですけど……」
「実は、友達から聞いたのですが……さわちゃん先生が、俺の親父に襲われたらしくて。
ホント、ごめんなさい」
深々と彼は、頭を下げた。
「ま、誠君……」
言葉は少し呆れた表情で、伏せた彼の表情を見る。
悔恨と無力感で、目を思い切りつぶっていた。
「え……」
唯以外の4人は思わず呟く。
唯は耳に入っていないのか、相変わらず泣いてばかり。
しばらく、沈黙が流れた。
するとムギが前に出て、
「実は、私もSPからちょっと聞いていました」
「え……」
「でも、心配しないでください」ムギは微笑みを浮かべながら、「先ほどさわ子先生の電話を、私もらったんですけど。元気な声でしたよ。気にしていないみたいです。
だから、心配しないでください」
「本当に大丈夫なんですか?」
と、誠。
「ええ。上機嫌だったわ。きっと何か、いいことでもあったんでしょう」
「そう……ですか……」誠は多少安堵したものの、気がかりでならなかった。「さわちゃん先生にも謝りたいしな……」
そう言ってから、背後の足音を感じて振り向く。
見覚えのある顔がやってくる。
世界だった。
「誠……」
言葉とくっつく彼を見て、思わず彼女は声を上げた。
「世界……」
言葉が世界の前に大の字になって立ちふさがる前に、世界は目を潤ませ、はっきりした声で、言った。
「私……。誠を好きになったこと、後悔してないからね!
たとえ血がつながっていても、兄妹であっても、私、誠のこと、忘れないから!!」
誠も、唯も、言葉も、これを聞いてきょとんとなった。
『血がつながってる』『兄妹である』
全然わけがわからなかった。
律だけが、伏し目になる。
言うことだけいうと、そのまま後ろを向いて、世界は駆け去った。
「…
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