第一章
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第一章
知と知の死闘 第二幕
九三年は長嶋茂雄が巨人の監督に復帰した年だった。世間の目は彼に集中した。大物ルーキー松井秀喜も入団した。これは毎年の事であるが誰もが巨人を優勝候補筆頭に挙げていた。
「フン、提灯持ち共が。今のうちに精々言うとくんやな」
これは誰が言ったか。テレビを見て誰かが言った。去年の日本シリーズの死闘をその目で見た者にとっては巨人一色で提灯持ちをしている連中が実に滑稽に見えた。これも今にはじまったことではない。我が国のスポーツ報道のどうしようもない病骨髄に至ることである。気付く時はその球団と自分達が奈落の底に落ちた時であろう。いや、もう既に落ちていていまだに気付いていないだけかもしれないが。それが我が国のスポーツ報道の実態である。
その愚劣で滑稽な報道に心動かされず臥薪嘗胆する者達がいた。ヤクルトナイン、そして野村である。彼等は巨人なぞ眼中になかった。王者西武を倒す、それだけが彼等の望みだった。
ペナントはヤクルト有利に進んだ。巨人は三位、ヤクルトは長嶋巨人を叩き潰し見事にセリーグを連覇した。所詮提灯持ち共の予想なぞあてにはならないということである。邪道は邪道、正道には決して勝てはしない。戦略戦術を解さぬ愚将が百戦錬磨の知将に勝てるのか。言うまでもないことである。提灯持ち共にはそうした簡単なことさえ理解することが出来ないのである。
そしてヤクルトには新たな顔があった。昨年故障で日本シリーズには出られなかった西村龍次、川崎憲次郎。そしてストッパーとして高津臣悟の姿もあった。ストッパー不在に泣かされた昨年とは違い今年は抑えもいた。昨年よりもその戦力は増していた。
対する西武はデストラーデが抜けた。だがその戦力は万全である。ペナントも有利に進めた。しかし最後の最後でもたついてしまった。
「なにをやっとるんだ」
森がこぼした。マジック1から中々勝てないのだ。
だがようやく勝った。しかしチーム内に妙なしこりが出来た。
左のエース工藤が登板拒否を起こしたのだ。
工藤は頭脳派であり自分自身の調整には人一倍気を遣う。そして我が強い。このシーズンでは森に今シーズンの最終登板を言い渡されると独自の調整に入った。シリーズを睨んでのことである。だがもたつく状況に森は彼に再び登板を要請した。
「話が違う」
彼は憤慨した。登板を拒否したのだ。おそらくその根底には森の投手に対する考えも知っていた為の感情的なものもあったのであろう。
「我が侭で身勝手で自己顕示欲が強いのが投手型人間」
森はこう言った。野村もそれは同じであったが。共に捕手出身であり投手とは付き合いが深い。また対立も多い。その事から生じた見方だろう。ただでさえ陰気な雰囲気が拭いきれず特定の人物には露
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