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知と知の死闘
第一章
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り西武は強い、このまま優勝だと。
 しかし何故か森の顔色は晴れなかった。元々感情を表に出す事を好まない傾向のある人物であるがこの時はそれが何時にも増して強かった。
 次の試合は西武の本拠地西武球場で行なわれる。移動日となった十九日、森はレギュラーの野手陣に休養するよう伝えた。そして投手陣の練習にも顔を見せず一人監督室にこもっていた。
 そこで彼は第一戦及び二戦が終わった時点でのデータ分析を行なっていた。そして第三戦以降のローテーションの組み立てについても考えていた。
 彼は野手陣には手ごたえがあった。石毛や辻の守備、清原やデストラーデのバッティングを見て彼は選手が相手をよく観察していると思っていた。そしてそう発言した。実際野村は石毛や辻の守備に脅威を覚えていた。これこそが野村の野村たる所以でもあった。彼は守備の持つ力をよく理解していた。そしてそれは森も同じであった。
 だが守備は野手だけでするものではない。もう一つの要として投手がある。否、投手こそが守りの、野球の最も重要な部分なのだ。
 西武の投手陣は万全をもって知られていた。第一戦で先発を務めた渡辺も郭もそうであるし抑えの鹿取や潮崎もそうであった。西武は投手王国としても有名であった。
 だがその投手王国の最も重要な人物のうちの一人がこれまで出ていなかった。西武の左のエース工藤公康である。
 この時彼はシリーズ前の練習で左ふくらはぎを痛めていた。一時は回復したが第一戦の試合中の投球練習で再び痛めてしまった。回復は暫くかかる。その為ローテーションに不安があったのだ。
 しかも郭もいない。肝心の投手陣に左右の両輪が欠けてしまいかねない状況だったのだ。そしてそれは野村の耳にも入っている。森は思案していた。
(第四戦はあの男を使うか・・・・・・)
 森はこの時ある策を思いついた。そしてそれは彼の起死回生の秘策であった。




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