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知と知の死闘
第一章
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り上げる。森は思わずぼやいてしまった。
「野球以外の話が多過ぎる」 
 試合前の前哨戦は野村のペースで進められた。
 だが野村もそうせざるを得なかった。例え相手が森であろうともささやきは仕掛けるつもりであった。だがこの時は今までにも増してその裏には危機感があった。
 野村が率いるヤクルトは阪神とのペナントを紙一重で勝ち抜いていた。戦力的にも心もとなくまた怪我人も多かった。
 信頼出来る先発は岡林洋一と伊東しかいない。荒木大輔や高野光もいるが怪我からようやく復帰したところである。
 抑えもいない。またパワーを誇った野手陣も若く勿論シリーズの経験なぞ皆無である。一枚もカードに余裕は無かった。
 否、そのカードでさえまともに勝負出来るかとうか甚だ心もとない状況であった。
 対するは西武。黄金時代であり投手陣も野手陣も万全の状況である。その戦力はあの王、長嶋を擁していた黄金時代の巨人をも凌駕すると言われていた。投手には郭泰源、工藤公康、渡辺久信、そして石井丈裕。野手陣は当時最高の捕手と言われた伊東勤を扇の要に清原和博、秋山幸二、デストラーデ、石毛宏典、辻発彦、平野謙。そうそうたる顔触れが揃っていた。
 『西武圧倒的有利』誰もがそう言った。西武の四戦全勝、若しくは四勝一敗で西武が勝つと殆どの者が予想していた。『王者西武にあのヤクルトが勝てるものか』、『これは今までで一番戦力差のあるカードだ』そう言う者達すらいた。
 そうした中のプレーボールであった。十月十七日、秋晴れの日の下で試合が始まった。西武の先発は渡辺久信、ヤクルトは岡林であった。まずはデストラーデが得意とするシリーズ初打席アーチを仕掛ける。これに顔を暗くしたのは神宮の一塁側だった。
 それに対し野村は果敢に攻撃を仕掛けて来た。切り込み隊長飯田哲也のプッシュバント、そして投手の岡林のバスターエンドラン。しかしそれは西武のセカンド辻の見事な処理で防がれた。森はそれを見て余裕の笑みを浮かべた。
「当然やってくると思っていた。あっちは変わったことをやって成功すれば褒められる。楽だな、あちらさんは」
 それに対し野村は気を引き締めた。
「やはりな。一筋縄ではいかんわ。そう簡単にだませる相手やない」
 彼は試合前に西武の守りの中心であるその辻や石毛がグラウンドでボールを転がしているのを知っていた。そうしてグラウンドの地を見ている、西武の野球は違っていた。その事を野村は誰よりも知っていたしまた恐怖していた。
 だがその恐怖に将自身が捉われたならばその時点で負けである。野村はそれを封じ込め、西武に気圧されているチームに喝を入れる為にあえて積極策を執ったのだ。だが喝は監督ではなく選手の一人が入れた。
 岡林のバスターエンドラン失敗の後飯田に打席が回った。二塁には岡林が送った形になった笘篠賢治が
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