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第六章
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ッカーでラジオを聴いていた。そこで戦いの成り行きを聴いていたのだった。西鉄の日本一を聴いて彼等はまずは表情を変えなかった。
「稲尾やな」
「結局はそうやな」
 そこには山本もいた。彼もその言葉に頷く。
「あの男がいたから優勝できた」
「はい」
「その通りですわ」
「御前等、稲尾は手強いやろ」
 山本はふとナインに対して問うてきた。
「それもかなり。どや」
「手強いです」
 岡本が素直に答えてきた。
「それもかなり」
「中々打てませんわ」
 大沢啓二も言った。南海の中では異彩を放つ男である。その鋭い目はその筋の人間を思わせる程だ。だがそれと共に優しさと人間としての器も感じさせる目であった。
「けれど。ですな」
「わかるか」
 山本は大沢のその言葉に応えた。
「こっちにも稲尾はおるわ」
「そうでんな」
「ちゃんと」
「スギ」
 山本はロッカーの一隻で静かに座っている杉浦に声をかけた。
「来年は。見せてもらうで」
「はい」
 杉浦は静かにその言葉に応えた。
「任せて下さい」
「ああ。西鉄には稲尾がおってうちにはスギがおる」
 こうまで言う。
「そのスギで。来年こそは」
「やりましょうや、監督」
「来年こそは」
 ナインもまた口々に言った。そうして彼等は今年の悔しさを来年にぶつけることを決めたのであった。翌年の南海の日本一、杉浦の伝説の四連投四連勝の前にはこうした決意のドラマがあったのである。
 もう遠い昔の話だ。この時戦った戦士達は誰も現役に残ってはいない。山本、後の鶴岡一人も三原も杉浦も仰木も泉下の人となってしまった。平和台球場も大阪球場も時の彼方に消えてしまい西鉄ライオンズも南海ホークスもその場を離れ親会社を変えてしまった。しかしこの時戦った戦士達の心と記憶は残っている。人々の心に永遠に。それだけは消えることが永遠にない。


盃   完


                  2007・9・20

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