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第一章 〜囚われの少女〜
画策
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「そうね。あなたの言うとおりだわ――お芝居を見に行きましょう」

 しかしその微笑みは、悪戯な微笑みに変わった。
 姫は、足に絡みついてくる邪魔なドレスの裾を持ち上げた。
 ダニエルが気づいた時は既に、ヒールの靴で走り出していた。
「あっ! あの……っ!?」
 走るには動きづらい、鎧をまとった体で慌てて姫の後に続いた。
 ゆるやかなカーブを描いた階段を、上品なドレスを着た少女と鎧の音が駆け降りる。
「姫様! 何をそんなにお急ぎになっているのです!」
 お互いの走る速度は遅いが、まるで子供が追いかけっこでもしているかのような光景だった。
「私のお傍をお離れになっては危険です! 賊が紛れ込んでいることが万が一あれば」
 騎士は歩調を緩めるよう懇願する。
(――万が一)
「……あれば?」
 階段の途中で、姫はようやく立ち止った。
 そこからこちらを振り返り、ほんのすこしの間見えたのは、柔らかな微笑み。その微笑みは、一人の青年の時を止めた。
「あなたが助けてくれるのでしょう?」
 思考が停止し、視線は自分に向けられた表情に、全てを奪われた。
「は……はいっ!」
 姫に返事をした時、すでに時は動いていた。
「姫様〜!」
(……元気になられたご様子だな)
 ふわりと身軽に、姫は石の階段を降りてゆく。
 青年はその姿から、結局片時も目を離すことが出来なかった。


――


 劇場は王宮の一部となっており、その一階は一般人の席だった。
 そして二階は独立した王族の席を中心に、そこから左右に貴族と来賓の席が分かれていた。つまり王族は、一番の特等席である正面から劇を見ることができるのだ。

 一国の姫は青年の騎士を侍らせていた。どこか浮かない表情をしており、別の場所に心を置き忘れたかのように無機質だ。
 どんなに明るく気丈に振る舞おうとも、一抹の不安と罪悪感、無力感に苛まれ、観劇を心から楽しむような心持ちにはなれなかった。


                               −第十四幕へ−

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