第一章 〜囚われの少女〜
画策
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くらっていた騎士は慌てて返事をする。5、6名の学者から白い眼を向けられていた事は知らずに。
「私は資料保管庫へ行ってくるわ。あなたはこの本を片付けるのをお願いね」
颯爽とその場から去る。大きな本が2・3冊程――それに一瞬目をやった後、ダニエルは敬礼する。
静かな室内にカシャン、と鎧の音。各々研究に集中していた学者とっては、耳障りだったことだろう。
「ダニエル君。書斎では静かにお願いしますね」
若い騎士は、老人にたしなめられる。鎧の騎士が本を片付ける間、しばらく書斎はピリピリとした空気に包まれていた。
「さて、ダニエル・アンダーソン君。君は急いで姫を追わなければ。それから姫様に、おいぼれが申していたとお伝えください――」
(えっ?)
自分のすべき事に慌てるダニエルは、振り向く余裕はなかった。一刻も早く姫を追わなければ。
「わがままに生きるというのも、一つの道かもしれませんぞ。と」
一体どのように返事をすればよいのかわからなかったが、そのまま背中で聞いたそれは自分に対する言葉のようにも聞こえた。
今のダニエルには、その言葉の本意はわからなかった。
――
「あの……資料保管庫に用があるのですが……」
資料保管庫前の扉は、いかにも頭の固そうな兵士によって守られていた。
「姫様であろうと、ここに立ち入って頂くわけにはいきません」
姫は困り果てた様子でそこに立ち尽くす。
(どうしたらいいの……こんな時)
後ろからカシャンと音を立て、騎士が追いついてきた。
「姫様。そろそろ劇場に向かわれた方がよいかと……」
姫の姿が確認できて一安心だが、確実に傍で護衛をしたいダニエルは、観劇を勧める。
「えぇ……そうね。ここにいても、私にはどうしようもできないみたい」
何もできないという無力感と、自分には無理だという絶望感。
「……やはり姫様は何か、ご心配を抱えていらっしゃるのですね? それが何かは存じませんが。でも――」
騎士は力のない姫の手をとり持ち上げた。
「そんな時こそ、姫様の好きなお芝居を見ませんか? 姫様の安全は、このダニエル・アンダーソンがお守り致します。わがままに生きる、そんな姫様を全力で守りたいと存じます」
少しキザなセリフをこの男は、至って真剣に申し上げる。
「ダニエル……ありが、とう」
姫はそんなダニエルを大きく開いた瞳で見つめる。良い意味で、姫にとって意外だった。姫の想いとは少しずれてはいるが。構わず独白は続く。
「わがままなレナ様だろうと、私は……いや、皆はレナ様を愛しております」
姫よりも年上の青年は、頬を赤らめながら付け加える。
「えっと……その、二コラ先生方がそうおっしゃっていたので」
姫は柔らかく微笑み、白いグローブの手で鋼の指先を包み込んだ。
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