第一章 〜囚われの少女〜
逃げた小鳥
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「……ったく。世話の焼ける小僧だぜ。オレだったらこんな所、とっくに出ていくな」
闇を切り裂くように飛ぶ船の、甲板には黒い影があった。
「“花の都”……オレリアか。オレは観劇させてもらうぜ」
黒く、大きな翼が羽ばたく。
深い、闇の色をしたコウモリの羽。船の甲板から、悪魔のような男が飛び上がる。
漆黒の髪に赤い目をした、その姿はまるで悪魔か吸血鬼のようだった。
甲板の柵から黒いマントを翻し、夜空よりも暗い闇の彼方へと消えていった。
船員の中で、それを知るものは誰一人としていない。
――
「これからの会議で決まったことは……明日の朝話すわ」
団長ライラは、ミカエラとシドを含む数人を残し、他の団員を部屋から出させる。
「演目は“少年と小鳥”……それから、“エリオとジュリエッタ”に変更するかも。だから、音楽担当はどちらの曲も練習しておくこと! それじゃ、演劇担当以外は、解散!」
とはいっても、音楽を担当する団員は5名のみ。担当はトランペットとホルン、バイオリンとコントラバス。それから打楽器係の、各一人ずつ。指揮者はいない。
狭い船の中でこれから練習でもするのだろう。しばらくすると船のどこからか音楽が聞こえてくる。うるさい中での会議という事だ。
「ジャックのかわりになるとしたら……やっぱりギリギリシドかしら」
ギリギリシド――もとい。シドはジャックに次ぐ若い青年だった。団長の言葉を聞くと、すぐさま話に飛びついた。
「ギリギリって……。まぁジャックより年上だしな。あの坊主よりも深くて、大人の男って感じの演技を見せつけてやるぜ!」
そこへ紅一点のミカエラがつっこみを入れる。
「ってそれじゃダメじゃない、少年役なんだから。それに、たった二つ三つの歳の差でしょ?」
ライラ団長は高らかに笑いながら話を進める。
「もう、シドったら。言ってしまえばアンタの方が坊主じゃない」
参ったな……とつぶやきながら、シドは自らの短い髪をなでた。その頭に巻かれたはちまきは、トレードマークとなっているらしい。
「そうねぇ……やっぱりアンタは“エリオとジュリエッタ”の『エリオ』役が向いていそうね」
“エリオとジュリエッタ”――まるであの有名な名作のような題名だ。というのはまた別の世界の話であり、ここでは別の話である。
「ただ、オレリアからの注文である以上、“少年と小鳥”の演目は避けては通れない」
それなら一体どうすればいいのだろう――団員は団長の方を見て首を傾げる。
「だから、今回は“二作上演”するしかないわね。“少年役”と“エリオ役”が来たというなら、演劇好きの国の姫は立腹されないはずよ。派手好きな王家ならなおさら――主演を演じた若い男の二人ですもの♪」
これは名案、とでもいうかのように団長は生き
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