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第一章 〜囚われの少女〜
潔癖症の少年と演劇団
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 船が目的地へと向かう間、ジャックは自室で独り本を読んでいた。
 自室とは言っても狭い船の中である。部屋数が限られているので本来ならば、二人で一つの部屋を使う。机はひとつあればいい方だが、ベッドはどの部屋も二段。
 この部屋に限ってはジャック一人だった。ベッドは上側を使い、下の段にはカーテンで閉め切っている。
 こうなったのはジャックからの、わがままとも取れるような申し出によるのだが、そもそも他の団員達もジャックと同室にはなりたがらなかった。
 同室である者が居ようものなら、消毒用のアルコールスプレーを体中に吹き付けられていたに違いない。それも逐一、事あるごとに、徹底的に。それほどまでにこの少年は几帳面、かつ神経質なのだ。
 今でさえこの、本を読む姿すらも周囲の人間を寄せ付けないような、鋭く冷ややかな雰囲気を醸し出している。
 しかし現在、少年の目は誰もが知らない輝きを持っているのだった。いつもその瞳は、光の届かない、深海の水底のような色をしていた。
 けれども今はまるで、よく晴れた日に輝く、水面のような色をしている。この本は一体、少年にどのような光を与えるのだろう。
 本は緑色の背表紙で分厚く、一見、小難しい内容を思わせる。
 だが、本の内容は物語だった。少年の齢が十六才ほどだとすると、おそらくはその半分ほどの年齢向けの本である。一体この本はどのような内容なのだろう。
 よほど思い出の深い物なのか相当使い込まれているようで、所々くすんだ色をしている。生活を感じさせないまでに整頓された、この部屋には不似合いな程汚れていた。
 それでももちろん、その手には常に手袋がはめられていた。その手袋はいつも不思議とあまり汚れたように見えないが、何枚かは替えが控えているのだろう。
 おそらくは、二段ベッドの下段に隠されている。閉め切られたカーテンに触れる事は他人には許さないジャックであるのだが。
 そもそも、この部屋には誰一人として、滅多な事では近寄らなかった。
 おそらく幼少期の体験が原因であると考えられるが、ジャックがこのような性格になるのに至った経緯を皆は知らない。
 ジャックはふぅと息をつき、本を机に伏せる。それから丸眼鏡をはずし、その上に置くと瞳を閉じた。
 肩の下まで伸びた髪を適当にまとめているだけだが、無造作な前髪の下は端整な顔立ちをしていると誰にもわかる。中性的な容姿から、仲間に女装を頼まれるほどだった。

 腰まではある背もたれに体を預け、少年は前髪をかきあげる。
 その様を見ている者が居たのなら、きっとさぞかし見とれたことだろうに。
「……かゆい」
 額を掻きながら少年はそんな事を呟くのだが。
 ふと思えばもう会議の時間であると気付く。明日に控えた、ある計画についての会議。
(一応、出席しておくか。僕に
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