第一章 〜囚われの少女〜
予告
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できまい)
姫は私めに向かって「ごめんね」といった風なお茶目な表情をなさる。そして軽くウインクを下さった。
そうしたのちに、扉は重々しく向こうへ閉じようとする。
しかしその刹那に姫様は、切なげというか、何とも妙な表情をなさるのだった。
「?」
そして私めは、姫様の唇の小さな動きに目を凝らす。
「では、また――」
――小さな唇の動きから読み取ったのは、“またあとで”という言葉。
扉が閉まった後も、姫様の表情は頭から離れなかった。明るい表情が一瞬にして曇ったのが余計に気になる。
『では、またあとで』――どのような想いであのように言われたのだろう。姫様は後で私に何か、相談事でもあるのだろうか。
この、重々しい気持ちはなんだ。なにが、彼女をあんな表情にさせるのだ。
盗賊団に狙われているということは、キャスリン嬢から既にお聞きになっていると思うが……。きっと、それとはまた別の事なのだろう。
姫様は一体、後で何をなさるんだろう?
考えすぎかもしれないが、美しいお方の、あの表情は反則だ。おかげで、姫様の事で頭がいっぱいになってしまった。色々と期待をしてしまうのは、不謹慎なのかもしれないが。
―
「姫様。このように結わせて頂きました」
ドレッサーに向かったまま、背後から少女の声を聞いた。
「お気に召して頂けたら嬉しいです」
私の髪はとても長く、よく伸びている。なのでとても自分では結ぶことが出来ない。しかし私より小柄なこの女の子は、その髪を見事に編み上げてくれた。
いつも黒い服に、控えめなフリルのエプロンを腰に身に付けている。幼げな容姿に反して、常に冷静な侍女のキャスリン。
「ありがとうキャスリン」
背もたれのない丸椅子に腰かけたまま、キャスリンの方を振り向く。座ったままなので、軽く上目遣いになりながら彼女の方を見つめる。
目が悪いからか眼鏡をかけているキャスリン。その奥の、深緑色の丸っこい瞳は綺麗で、とても不思議。乳白色の肌に浮かぶそばかすも、素朴で可愛いと思う。肩につくかつかないか程の長さの髪は、身軽そうでうらやましい。
「いいえ。姫様の髪を結えるなんて、ワトソン家末代までの光栄です」
幼い雰囲気の、そんな彼女が言う言葉は少し大袈裟に感じる。
そう思うと、先程のダニエルに次いで、またしても吹き出してしまいそうになった。
「姫様?」
不思議そうな顔でこちらを伺う。
「ううん、なんでもないわ」
本人は真面目に言っているのだから、笑うなんて悪いことしたかな。
それにしてもこの城の者たちは。皆、真面目で従順で、なんてひたむきなんだろう。
(それに比べてお母様ときたら……いや、私も同じかもしれない)
父が亡くなってから、何かが変わってしまった。
(厳しか
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