第一章
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今年もうちが勝つからな、最後には」
こう言い残して姿を消す。背中にはまるで覇王の様な覇気が漂っていた。
記者達はその後姿を見ている。そうして口々に言うのだった。
「こりゃ三原さん」
「また企んでるな」
三原の通り名は色々ある。その中の一つに策士というものがある。彼の頭脳は抜群の切れを誇っている。その彼が何かを言う。それだけで彼等はそこに感じるものがあったのだ。
それについて言い合う。その間ずっと三原の背を見ている。
「面白くなるかもな、今年は」
「これからな」
オールスターが終わろうとしている頃のある球場での話だ。そうして後半に入った。三原の目の光はこれまでになく強いものが宿り球場を見据えていた。
奇策が次々と炸裂する。三原が最も得意とする策略が次々と効を奏する。ビルマ戦線を生き抜き多くの死闘を潜り抜けた魔術師の知略が今湧き出ていた。
これにより西鉄は驚異的な追い上げを見せた。そうして遂に南海に追いついた。九月の終わり、両者は最後の戦いの時を迎えたのだった。
戦場は平和台球場。言わずと知れた西鉄の本拠地だ。今南海は敵地に乗り込んで西鉄と対峙したのであった。
多くのファン達も駆けつけてきた。三塁側には南海の緑の旗が翻っている。彼等も殺気立ち西鉄ファンと睨み合っていた。
「勝つのは俺達だ!」
「いやわし等や!」
両軍は一触即発の事態になっていた。平和台は今風雲急を告げその中に南海も西鉄もいたのだった。
南海ナインも西鉄ナインも緊張の中にいた。とりわけ負い掛けられる南海ナインの緊張はかなりのものであった。そう、彼等は最後の戦いに向かおうとしていたのだ。
山本はかつて陸軍にいた。そこで機関銃部隊の中隊長として活躍した。生まれ着いての指導者であり裏の世界の首領達も逆らえない程の人としての凄みを持っていた彼であったがこの時はまさにその陸軍将校の顔になっていた。一軍の将の顔に。
彼は決断した。そうして南海のロッカーにナインを全員呼び寄せた。まさに意を決した顔でだ。山本の顔は何時になく険しく恐ろしいものであった。
「皆来たな」
「はい」
コーチの一人が彼に答える。
「これで全員です」
「よし、ならええ」
その言葉に頷く。次に別のコーチに顔を向けて言った。
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