第八十三話 権力者その八
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「夫を常に支えるべきですから」
「それでか」
「はい、ですから」
微笑みのまま権藤に言う。
「あなたはあなたの為されることを果たされて下さい」
「ではな」
「それでは」
「私はいい妻を持った」
権藤は微笑み妻のその顔を見て言った、その整い優しい顔を。
「よい妻を持つことは幸せだ」
「ソクラテスですね」
「私はいい妻を持った。だが」
「だが?」
「そもそも私は哲学には興味がない」
ここでこうも言ったのである。
「他の学問、経済学や法学、政治学にはあってもな」
「それもソクラテスですね」
「悪い妻を持っていない」
ソクラテスのその言葉をなぞっていく、それによると。
「私は哲学者にはなれない」
「そう仰って下さいますか」
「哲学に興味がないから別にいい」
悪い妻を持たずともというのだ。
「幸せなのだからな」
「有り難うございます」
「もっともソクラテスの妻は一人ではなかった」
この時代ではよくあることだ、尚古代ギリシアでは妻よりも同性の恋人を尊ぶ傾向も強かった。このことは神話にも出ている。
「その悪妻だけでもな」
「そうだったのですか」
「確か四人いた」
その有名な悪妻以外にというのだ。
「クサンチッペ以外にな」
「それがその奥さんの名前ですか」
「名前がわかっていない妻もいた」
クサンチッペがあまりにも有名だが彼女がそうなったせいであろうかそれとも当時の歴史家が書き残す必要を感じなかったのかだ、彼女達の名前はわかっていないのだ。
「悪妻はそのうちの一人だった」
「それではどうも」
「悪妻は男からの言葉だな」
言ってしまえば主観だ、それも一方的な。
「実際は悪夫もいる」
「悪妻がいるならですか」
「悪妻愚母という言葉があるなら悪夫愚父という言葉があって当然だ」
悪妻愚母と同じだけいてもおかしくない、だが世の中を見ると後者の方が多いのは気のせいであろうか。
「そう思う」
「あなたは男尊女卑ではないですからね」
「女性でも能力があればだ」
重く用いる、権藤のやり方だ。
「使わなくてはな」
「そう仰っていますね、いつも」
「能力に性別はない」
性別での向き不向きは確かにあってもだ。
「私はそう思う」
「そうですね、いい考えだと思います」
「その生まれで能力はわからない、私もだ」
「あなたもでしたね」
「生まれは同じだ、全くな」
自身のことも淡々と話す、そして。
遠くを見る目でだ、こうしたことも話した。
「彼等、剣士達もな」
「剣士?」
「何でもない」
このことだけは妻にも言えなかった、だから隠したのだ。
「気にしないでくれ」
「わかりました」
「ではだ、夜も深い」
「お休みになられますね」
「経営も政治もまず身
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