第八話 ベーネミュンデ侯爵夫人(その2)
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彼に勝てるのはミューゼル大将ぐらいのものだろう」
「そんな手強い相手がいたかな」
俺の見る限り、エーリッヒの軍人としての能力はかなりのものだ。ナイトハルトもやるがエーリッヒには及ばない。そのエーリッヒがそこまで恐れる? ミューゼル大将以外にか? 一体誰だ?
「……ヤン・ウェンリー」
「……エル・ファシルの英雄か」
俺の言葉にエーリッヒが頷いた。
「恐ろしい相手だ、戦術レベルではミューゼル大将でも勝つのは難しいだろう。良くて引き分けかな」
「卿とはどうだ」
「話にならない、負けないように戦うのが精一杯だ。それでも負けるだろう、長引かせるのが精々だよ」
「ふむ」
エーリッヒは渋い表情をしている。この手の判断でエーリッヒが誤まる事は滅多にない。しかし、それでも疑問が有る。
「まぐれじゃないのか、あれ以降はパッとしていないが」
俺の問いかけにエーリッヒはすっと視線を外した。
「いや、まぐれじゃない。用兵というのは結局のところ個人の能力と感性に負う部分が多い。同じような戦局でも指揮官が違えば戦闘推移も結果も違うのはその所為だ」
確かに、人によっては攻勢を執るだろうが別な人間なら守勢を執る……。エーリッヒが視線を上げた。そして俺に視線を当てた。
「つまり軍事的な才能と言うのは努力よりも持って生まれた資質の方に左右されるんだと思う。自由惑星同盟のビュコック提督は兵卒上がりだが同盟でも帝国でも名将と評価されている事を思えばどうしてもそう考えざるを得ない」
「なるほど、努力より才能か。非道徳的な学問だな、努力を虚仮にするとは」
俺の言葉にエーリッヒはニコリともせずに頷いた。冗談だったんだが面白くなかったか……・
「士官学校での教育は軍人として最低限の知識を与えるという事だと思う。そう考えると軍人としての能力、これは与えられた知識をどう活用できるかという事だろう」
「そして感性と言うのはどの知識を選択するかという事だな……」
エーリッヒが頷いた。水を一口飲んでから言葉を続ける。
「戦術シミュレーションはその選択肢を増やすという事だと思う」
「なるほど」
「エル・ファシルの一件は将に彼の能力が顕著に示されたケースだと思う。ああいう敵に包囲されてから民間人を連れて脱出なんてシミュレーションをやった事が有るかい?」
「いや、無いな。シミュレーションは殆どが艦隊決戦を前提としている」
「その通りだ、つまりヤン・ウェンリーは参考にすべき事例を持っていなかった。あの作戦は彼のオリジナルの作戦なんだ。怖いとは思わないか?」
「……」
「彼は民間人を押し付けられ、しかも味方から切り捨てられた。しかし自分が切り捨てられたことを的確に察知し、それを利用して奇跡を起こした。味方を囮にしてね。奇跡と言う言葉に惑わ
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