幕間〜想いを馳せる賢狼、野望進める店の長〜
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であり、後々どうとでも出来る卑怯な言葉。
「なら、この小鉢はおいしいというより普通だった」
少女から凛と鈴が鳴るように告げられた言葉によってその場の空気が凍りつく。自身満々に語っていた店主の言葉を引っくり返せる弱点を突いたから当然の事だろう。
少女は無機質な瞳で、期待の欠片も無い瞳で答えを待ったが、
「ふふ、そうですか。お好みに合わなかったようですね。ではこういうのはどうです? あなたの言葉によって一つの料理を生み出しましょう」
柔らかく微笑んだ店主が小鉢の野菜を小皿に取り、机の端にあった小瓶を手に取りタレをかけ始める。
どうぞ、と差し出されて疑問をそのまま口に運ぶと……少女の瞳は見開かれた。
――これは……味が劇的に変わった。しかし食材の味も殺さずに生かしきっている。悔しいが……おいしい。
「人によって好みに合わない料理もございます。求めて止まないですが、全ての人がおいしいと言ってくれる一つの料理などは存在しません。しかし、食事は和。あなたの言葉があってこそこの料理は作られました。そしてこの空間も料理の一つ。この空間が楽しい、おいしいと思ってくれれば、それも一つのカタチでは無いでしょうか。そしてそれこそが私の幸せです。もちろん、私の作ったモノがあってこそ、ですけどね」
悪戯っぽく笑う顔は少年のようで、少女はその男の言葉に心が動いた。まるでこの世界のようだと感じたから。
王が与える幸せも、人が形作る幸せも、カタチなど無限とある。そしてこの料理のように世界は変わる。誰かが動くことによって。
司馬家はその日の食事を心より楽しんだ。数多の料理はどれもとびきりおいしく、少女も久方ぶりに家族と多くの言葉を交わし、その空間に楽しさと幸せをほんの少しだけ見出せた。少女の世界は微細ではあるが色を持ったのだ。
満足した少女は帰り際に一つの問いかけを店主に放つ。
「この地に、店を構えた理由が知りたいです」
何故、幽州の片田舎にあるこの店が都にではなく覇王の治める地に支店を立てたのか。自分の世界を色づけるような出会いはただの気まぐれや偶然であってはおもしろくないと少女は考えていた。
その少女は店主の言葉を聞いてまた驚愕することになる。
「……私は料理で大陸を制覇するという目標があります。それを一人の友に伝えた所、いくつかの地を勧められまして……その中で一番手っ取り早く安全なのはこの地だとの助言を聞いたまでです。都に出そうとしたのですがそれだけは絶対にするなと止められたのもありますが」
他の地は何処かと聞くと上げられるのは建業や成都など、今後の乱世に於いて重要だが安全な所ばかり。そして覇王の膝元であるこの地は間違いなく乱世の悪い影響を受ける事が一番少ない。
支店が出来たのは黄巾が
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