暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
幕間〜想いを馳せる賢狼、野望進める店の長〜
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 幽州で戦の起こる少し前の話。白馬の片腕と覇王の交渉が行われてすぐの事であった。
 パタパタと軽い少女のモノである足跡が耳に届き、その店の店長は厨房から顔を覗かせた。

「てんちょ、てんちょー」

 大多数の白に藍色が少し混じった前髪、白だけの後ろ髪は二つに括られており、少しきつめの目鼻立ちではあるが、顔を見た誰しもが将来美人になると予想するだろう少女が速足で廊下を進んできていた。
 ただ、その少女は驚くべきことに既に元服を終えており、字も使い慣れているのはこの店では店長しか知らない。
 その少女の名は司馬仲達。
 覇王から勧誘の文が届くやいなや家出を行い、現在は一度だけ食事に訪れたこの店――娘娘 二号店(ついんて)に居候しているという異常な人物。
 服装は現代でいうメイド服。フリルがたくさんついたロングスカートのそれは少女の気品あふれる静かな声にもよく似合っていた。
 ただ、この店の趣向として給仕服をメイド系のモノに統一しているのでそれを着るしかないのも一つ。

「うぁっ……」

 突如、彼女は小さな可愛らしい声を出して、ロングスカートの裾を踏んづけて躓いてしまったが、

「おっと、どうかしたのですか?」

 店長は直ぐに近寄り、柔らかく受け止めてしっかりと彼女を地に立たせた。

「ありがと、です。もうすぐ、幽州に帰るというのは本当ですか?」
「ええ、今後の大陸への主な活動拠点はこの二号店ですが、そろそろ顔馴染みにも会いたいモノでしてね」

 ふっと小さく笑う店長は幽州にいる三人の常連を思い出して心を弾ませた。新作を振る舞った時にどんな顔をしてくれるかを思い浮かべて。もう一人の常連の場所も確定したようなのでその内支店を、とも考えている。
 そんな店長をじっと見つめる仲達は瞳の奥に冷たい輝きを光らせて口を開いた。

「帰っては、だめです。誰を帰らせても構いませんが、てんちょーだけはここに居てください」

 そのあまりに冷たい瞳と、普段の甘いモノからは考えられない凍えるような声に店長は寒気を感じた。

「……何故、と聞いても?」
「幽州は、戦火に沈みます。それもすぐに。移動も、満足に出来なくなるので帰ってくるのに長い期間がかかります。それに、残らざるを得なくなる」

 力強い瞳は確信を持って話している、と店長にはすぐに分かった。長い間あらゆる人物を見てきた彼には嘘を言っているかどうか見抜く事は容易い。
 残らざるを得なくなる、とは店長が利用される、その場に縛り付けられるという事。それが示す先はなんであるか。公孫賛ならば長老達との会合の為に利用するのは店の一室だけ。店長そのものを利用するモノは彼の知り合いでは欲の張った豪族くらいであろう。さらに店長の料理の腕は大陸でもトップクラス。誰もが専属の料
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