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《SWORD ART ONLINE》ファントムバレット〜《殺し屋ピエロ》
再び戦場へ
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女との約束を思い出した。
あの狙撃手、シノンは何をしているのだろう。自分と似ているらしい彼女も、今頃は同じ気分を味わっているのだろうか。
「リンク・スタート」
その一言で、俺の下らない感傷は、虹色の光に包み込まれて消えた。
□ ■ □ ■ □ ■
「もぉ、退屈退屈退屈ぅぅぅぅぅ!」
最高レベルのダンションが存在する街《カリバリー》。そこの酒場は《ガンゲイル・オンライン》のトッププレイヤーのたまり場と化していた。天井や壁に開いた穴から光が差し込み、店内で舞う埃に反射してキラキラと輝く。その中で、冗談のように高い声が響いた。どこか子供っぽい少女の声だ。
当然ヤジの一つや二つは飛んできてもおかしくはない。ここで空気を読まない馬鹿には、そのぐらいの制裁はあってしかるべきだ。しかし、いつまで経っても文句をいうプレイヤーは現れなかった。
それは彼女の実力が、広く周知されている所以だった。
酒場の一番端、少女は大きい椅子に隠れるようにしてジュースを飲んでいた。豪奢な金髪が背中へとこぼれ落ち、人形のように小柄で可愛らしい姿をしている。ふっくらとした血色のいい頬をぷぅっと膨らませ、鮮紅色の瞳を細めるその様は、物語のお姫様さながらだった。銀のベルトのついた漆黒のドレスも、彼女が身につけることでより一層美しく見える。
唯一違和感を覚えるのは、その隣に立てかけられた凶悪な機関銃だった。恐ろしいことに、銃身の大きさが、彼女の座高を軽く上回っている。
重機関銃KVP
本来スコードロン単位で所持する物であり、仮にドロップしても個人では運用できない《ガンゲイル・オンライン》屈指の固定兵装である。114ミリ弾を毎分600発で吐きだし、500メートル先の鋼鉄を引き裂く化け物だ。
だが、彼女のそれには、職人プレイヤーによって高度な改造が施されていた。あろうことか三脚を取り外し、軽機関銃《ミニミ》のグリップとストックが、ちぐはぐに取り付けられているのだ。これでは少女が扱うどころか、大男3人でも撃てたものではない。ここが”現実”であったならば、だ。
仮想空間、ことゲームに関すれば、ステータスの数字が物を言う。彼女の凄まじいSTR--筋力値は、重機関銃を自力で持ち上げ、運用することを可能にさせてしまったのだ。
「リリアンヌちゃん。気持ちは分かるが、ここで騒ぐのは止めてくんない? 無用な争い事が飛んできそうでオッサンは恐い」
リリアンヌ、と呼ばれた少女の頬が、その苦言のせいでさらに膨れあがる。針でつつけば弾けてしまいそうだ。向かい側に座り、彼女の機嫌をさらりと悪化させた張本人は、素知らぬ顔でビールを煽っている。
「うぅー、コヨーテのバカッ! チキンッ! 死んじまえぇ!」
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