6部分:第六章
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にもう思い残すことはあらへん」
声援を受けながら花束を手にベンチへ向かう。そしてそこで振り返った。
「今まで有り難うございました!」
「また会おうな、千両役者!」
「あんたみたいないい男はこれからも頑張れや!」
頭を垂れて挨拶した彼にファンからの声がまた降りかかった。
その声の中彼はベンチの中に消えた。そしてその長く多くの出来事があった野球人生を終えた。
「人生色々あるわ」
かって彼は言った。
「晴れの日ばかりやあらへん。雨の日もあるわ」
幾度の波乱を送ってきた彼ならではの言葉である。
「陰に隠れなあかん時もあるやろ。じっと我慢せなあかん時もある。そして冬の時もある」
彼はその時目の前に今までの野球人生を走馬灯の様に見ていた。
「けれどな」
そこで優しい顔になった。
「何時までも降る雨なんてあらへん。隠れんですむ時も耐えたことへのご褒美が来る日もやって来る」
そこでファンの声援を思い出した。
「そしてな、冬があれば春は絶対にやって来る。春のない冬はないんや」
それが彼の野球人生の全てであった。彼はその最高の春を受け、そしてその中で花道の中を歩き終えたのであった。
「ホンマに何が起こるかわからへん」
彼はニコリとして笑った。邪気のないいい笑顔だった。
「だからこそ面白いんやろな、野球も人生も」
彼は今も野球を愛している。マスターズリーグでも活躍している。
「今も野球人やで」
そう言う彼の背中は誰よりも頼もしい。そして誰よりも優しかった。
最後の大舞台 完
2004・8・11
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